2010年7月28日水曜日

「インプラントで困ったら」が困った(5)

5回目は糖尿病でインプラントができないというお話でした。

【医療ルネサンス 読売新聞】

よくよく考えると今回と前回はインプラントで困ったのではなく、治療が受けられなくて困ったという話題です。それをインプラントが困る原因であるかのようなタイトルで、(1)〜(3)と同列に扱うのもどうかと思います。。。

さて治療を受けたくても受ける事ができない悩みはつきません。前回のコスト問題もそうですが、その他にも治療時間・骨の量や位置に問題がありハードルが高くなる事は普通にあります。

糖尿病については以前にも書いたのですが、病気に危機感を持たず治療をしていない人があまりに多く、この「隠れ糖尿病患者」の存在に私達は頭を痛めています。インプラントではありませんでしたが、著書にも書いたように私も糖尿病を隠していた患者さんに振り回された事がありました。

記事は「検査データーを持って行くことも有益だろう」と結んでいますが、そういうレベルではなく、検査データはすべてのインプラント治療の方に絶対に必要です。

私達は会社での検診や献血のデーターがある方にはお持ちいただくのですが、ないかたは検査に行ってもらうか、こちらで採血をします。しかし採血ができる歯科医院はかなり少ないでしょう。

今日多くの歯科医院でインプラント手術が行われていますが、血液検査をせずに施術する事がほとんどではないかと思います。とても怖い事だと思います。

ですから私が行ったセミナーでは採血の実習が必ずあります。けっこうたいへんなんですが。。。

糖尿病は本当に怖い病気ですが、名前からして命を奪うような病気に聞こえないのが困ったものです。もちろんそれではインプラントはできません。ならブリッジや入れ歯ならいいのかと言えばまったく間違いで、負担が増えた歯は歯周病がさらに加速します。

ここは一つ、インプラントに挑戦する事で糖尿病を克服するくらいの気持ちで行って欲しい、インプラントが可能な自然な体に戻す事が未来の自分自身のために大きな意味を持つ事に気がついてほしいと思います。

以下をご参照いただければ幸です。


2010年7月26日月曜日

「インプラントで困ったら」が困った(4)

4回目はコストの問題です。この記事を読んでオーバーデンチャーを希望する患者さんが増えると思いますが、もちろん注意しなくてはならない事があります。

【医療ルネサンス 読売新聞】

確かにインプラントはコストが問題になります。小さな車一台分のコストがいきなり必要ですと言われたら、ほとんどの方が「ウ〜ン」という事になってしまいます。それを緩和する方法の一つとして、オーバーデンチャーが紹介されています。

「デンチャー」とは入れ歯、そして「オーバー」とは歯やインプラントの上に入れ歯が乗っかっている状態です。つまりオーバーデンチャーとは歯やインプラントの上に入れ歯があり、歯やインプラントが入れ歯を支えている構造です。たとえばこんな感じです。

写真左側の2本がインプラント、右側3本が自分の歯
4箇所にマグネットを付けて入れ歯を固定します
オーバーデンチャーの目的はコストダウンではありませんが、確かに通常の完全固定式(自分では取り外しができない)に比べれば安価に仕上げることができます。入れ歯に躊躇しない方には良い選択肢であり、文中にあるように外して他人に磨いてもらう事ができるのは大きな特徴です。

しかし気をつけなくてはならない事もたくさんあります。外して磨けるといってもインプラントが外れるわけではありません。口の中の手入れが必要なのは変りません。

それから歯やインプラントは入れ歯でスッポリ覆われてしまいますので、これは理屈でいえば歯周ポケットが深くなったのと同じ事になり、むし歯や歯周病の菌が一機に増えてしまいます。インプラントはむし歯になりませんが、歯はちょっと油断しているとすぐにむし歯になってしまいます。手入れが悪ければ固定式より早く歯周病が進行し、もちろんインプラント周囲炎も格段に進みやすくなります。だからぜんぜん安心ではないのです。

オーバーデンチャーの良い所は、入れ歯自体を小さく造る事もできることです。通常の入れ歯はある程度の大きさがなければ安定いたしません。しかし歯やインプラントにマグネット着ければ外れにくくなるので、入れ歯自体を小さく造ることができます。

中ほどをくりぬいた、馬蹄形のオーバーデンチャー
また歯やインプラントに「噛む重さ(咬合圧っていいます)」を負担させれば、痛くない入れ歯を容易に手に入れる事ができます。その結果、歯がある時代のように力を入れてしっかり噛めるようになるのです。

しかしそこが落とし穴で、そもそも入れ歯とはプラスチック製なのでたいへん破損しやすいものです。噛める入れ歯は壊れる、これはある意味常識です。オーバーデンチャーは力を入れて噛めるために、設計にそうとう配慮しないとすぐに壊れてしまうのです。

破損したオーバーデンチャー
普通の入れ歯は噛む重さを粘膜が負担します。しかしオーバーデンチャーは咬合圧のほとんどを歯やインプラントが負担しますので、当然その付近から破損してきます。

そこで考えられたのが「可動性磁石」というもの、このビデオをご覧になれば解る通り、磁石がフリーで上下します。


これを組み込んだ入れ歯は、咬合圧が歯やインプラントには加わらず、従来通り粘膜が負担します(ですから入れ歯は従来通りある程度の大きさが必要です)。しかし入れ歯が外れる力には、マグネットが着いた歯やインプラントが対抗します。これにより歯やインプラントのみに強大な咬合圧が加わる事はなく、破損が防止されます。

またマグネットが動くということは、入れ歯が動いてもマグネットは追従せずくっついたままなので、外れにくい入れ歯になります。完全固定式のマグネットは、僅かな入れ歯の位置ズレでマグネットの吸着力がゼロになってしまい、パカパカになるケースが多いのです。記事のようにピッタリ行くのは実はけっこう難しい話しなのです。

文面ではオーバーデンチャーは比較的安価で効果も素晴らしいもののようですが、良い事ばかりではありません。しかし通常の入れ歯の注意+歯磨きや破損に注意すれば、快適に使えるでしょう。



2010年7月25日日曜日

インプラントのすべてが解る本の「立ち読み」を追加

この本が世に出てからはや3年、3年前の今ごろはちょうど出版記念会の準備でアタフタしていた事を思い出します。

しかし今では絶版に、入手は在庫限りで私達の所にも後数冊しか残っていません。

このblogでもインプラントのネタを多く扱っていますが、そのたびに改めて読み直してみると「よくこんな本を書いたもんだな〜」と我ながら感心してしまいます。

これはまえがきにも書いたのですが、普通インプラントの本といえばインプラントを決断する事を後押しするものばかり、私のように「注意してくださいね、やるならきちんとやってくださいね」と後々の事まで遠慮なく書いたものはほとんどありません。これじゃ売れる訳ないですね〜

しかし何冊売れたのかはだいたい推察がついています。そしてそのうちの何人かは実際においでいただき治療をさせていただきましたが、苦労して良かったなと思います。


さてこのままお蔵入りになってはいけないので、この本のキーポイントとなる部分を立ち読みコーナーに追加いたしました。どれもほとんど世の中で言われていないような事ばかりです。
これらは皆、昨今いろいろ言われているインプラントの問題点や誤解・トラブルにもかなり答えています。ぜひご参考にしていただきたいものです。

***

PS:こちらは3年前の出版記念会で参加者全員に配らったオミヤゲです。簡素なものですが、診療の合間をぬって皆で一生懸命造ったものです。ナツカシィ…

 

旧スタッフ来院〜鍼麻酔

木曜日の事ですが、5年前まで努めていた歯科衛生士のNさん(旧姓Sさん)が暑さ厳しき中、もぐっている親知らずの抜歯のため来院しました。

で、いただいてしまったのがコレ。ゴチです。オイシカッタ〜!



さて親知らずですが、今回は右下。まだ彼女が在職中に左下を抜歯しましたが、その時と同じように鍼とレーザーを併用し、できるだけ痛みや腫れがでない工夫をします。詳しい事はまた後日、とりあえず鍼とはどんなものかをビデオでご覧いただきましょう。


今回使ったツボは「合谷」と「曲池」という有名な所。下顎の治療にはよく使います。肩凝り治療にも使う通電機を繋げていますので、指がピクピク動いています。ちょっと変な感じですが、これでけっこう効きます。

顔や口の周囲にも鍼が有効ですが、ちょっと痛いし内出血の可能性もあるので、私はレーザーを良く使います。半導体レーザーという機械は痛みの治療に良く使われるものですが、ツボに使っても鍼のような効果があります。

で、今回の抜歯は骨の中に水平に埋まった親知らず。骨を削ったりといろいろ煩雑ですが無事終了。痛みも腫れもなく、経過は良好だそうです。

ちなみに中指についている大きなクリップはパルスオキシメーターと言って、爪からレーザーで血液の酸素濃度を測っているもの、鍼とは関係ありません。

さて抜歯直後ですが、以前彼女が担当していた方がちょうどメンテナンスでお見えになっていました。で、ちょっとご挨拶。もう5年も前の事ですがちゃんと覚えていただいておりました。

しばしお互い楽しい話が続いており、あー、いいもんだなと思ってしまいます。いつまでもこのような事が続けば、そしてそんな人をもっと増やせればと思いました。

Nさんも今では二人のお母さん、子育ても少し楽になってきたのかまたロングヘアに戻り、なんかイイ奥様になってしまいましたね。ココで働く人、いらっしゃる人、みんなが幸せになれるよう、私もがんばりましょう。

2010年7月23日金曜日

「インプラントで困ったら」が困った(3)

三日目です。今日は寝たきり高齢者の話題でした。

【医療ルネサンス 読売新聞】

これは正に私が書いた本のメインテーマそのもの、インプラントは高齢社会とどうバランスを取って行くべきなのか、答えは無いようで有ります。終章「高齢社会とインプラント」はそれに特化して書いたものです。


今日の記事も「発熱はインプラント周りの汚れが原因だった」とインプラントだけが悪者扱いにされている事がたいへん気になります。汚染された歯も同様なのですが!?

「麻酔を使って抜いた」とありますが、歯と違いインプラントの撤去はかなりたいへんです。担当の先生はそうとうたいへんだったと思います。これが介護の現場では大きな問題です。

しかし「適切な手入れをしていれば〜〜〜体力を保つ事ができる」とは正にそのとおり。ただそれは寝たきりになってからスタートするものではありません。インプラント治療が始まる前から始まっていなくてはならない事なのですが、世の中どうもそうはなっていません。

文中にあるように、危なそうになったらアバットメントという芯を外してフタをして、歯肉の中に埋めてしまう方法があります。私もそれに賛成です。しかしこれとて炎症が深くまで行ってしまっては意味がありません。

それでもアバットメントが外せた方が良いのですが、このとき一回法というタイプのインプラントはアバットメントを外してもインプラントの連結部が歯肉の上にあるので、歯肉の中に埋まりません。

さらにその状態でリベースと言って、口の中でプラスチックを固めて入れ歯をピッタリ合わせる作業をしようとうすると、インプラントの連結部とプラスチックがひっかかって、うまく合わせられないというたいへんな不都合が発生します。ですから私は一回法用のインプラントはもうほとんど用いません。二回法用のインプラントを使用します。

しかしそれでもインプラントは高齢社会を支えています。これがなければ記事中の患者さんは、もっと早く不都合が出ていたのではないでしょうか。

これらの事はは著書に詳しく書いたつもりですが、すでに絶版。立ち読みコーナーで一部が読めるようになっています。ぜひ多くの人にお読みいただきたいものです。


2010年7月22日木曜日

「インプラントで困ったら」が困った(2)

二日目です。今日はインプラント周囲炎の話題でした。

【医療ルネサンス 読売新聞】

ここに登場した患者さんは、今までメンテナンスを受けて来られたのでしょうか?そしてそれ以前に、基本的な歯周病の治療を受けて来られたのでしょうか?おそらくなかったのではないかと思います。

歯がなくなるにはそれなりに原因があります。それが歯周病であった場合は、原因が解決していない事には同じ理由でインプラントも感染してしまいます。そのような話しが患者さんには伝わっていなかったのだと思います。

歯のメンテナンスは簡単に行かない場合が多いものです。自分ではうまくやっているつもりでも、私達からみるとまったく手が届いていない部分がたくさん発見されます。

私達はそれらが解決していないうちは、インプラントであろうと入れ歯であろう治療に入る事はありません。ですから多少の時間が必要ですし、患者さんはその時間を利用して自分自身を見直していただく事になります。そこまで慎重なのは、いろんなトラブルを見聞きしているからに他なりません。新聞はようやくそれを捉えたという事です。

しかし間違っていただきたくないのですが、メンテナンスがたいへそうだからインプラントはやめて入れ歯やブリッジにするというのはたいへんな誤りです。入れ歯もブリッジもメンテナンスをしなければ同じようにトラブルに巻き込まれます。インプラントだけがメンテナンスが必要なわけではないのです。

この記事ではインプラントだけがトラブルメーカーのような印象ですが、決してそうではありません。

それからこの記事の患者さんが大学で受けた治療は、インプラント周囲炎だけではないはずです。残っている他の歯にもそれに準じた治療があったはずです。インプラントだけが特別なわけではないのですが、インプラントだけが悪者扱いにされかねない内容ではあります。

「インプラントがぐらつく」という記載がありますが、インプラントは歯と違い「ぐらつく=骨とインプラントが完全に離れている」事を意味します。したがって本当にぐらついた時には治療はできず、撤去するしかありません。歯のようにぐらつきに気がついてからでは完全に手遅れです。

インプラント周囲炎の治療は非常に難しく、感染源をインプラント本体から取り除く事はたいへん困難です。まずはそうならないように注意する、たとえなったとしても初期の異常を見逃さず、適切な治療ができる歯科医院を選択する事が重要です。


2010年7月21日水曜日

「インプラントで困ったら」が困った

こういう記事が出る事自体が困った。。。

【医療ルネサンス・読売新聞】

「異常があったら早く相談を」とは確かにその通り。しかし本来相談に行くべき所は主治医の元であり、大学病院ではないはずです。

ではなぜそうなるのか、それは患者さんが主治医に不信感を持っているからです。記事中の不幸な患者さんはインプラント治療について正しい情報を教えてもらえないまま治療に入っていたようです。また主治医の先生はインプラント治療のネガティブな部分を隠ぺいしたまま手術に入った、起るべくして起きた悲劇かもしれません。

そんな患者さんが最後にたどり着くところ、それが大学病院や地方中核病院の口腔外科です。私もたまに大学に行って話しを聞いたりするのですが、どこの大学もこのような話しでたいへんです。

さてそれではインプラントとはそんなに危険な治療なのでしょうか?答えはイエスでもありノーでもあります。その答えはコチラです。

【インプラントのすべてが解る本】

どんな治療でもそうなのですが、リスクと隣り合わせなのは当然です。しかし医師も患者さんも失敗や不都合な事は考えたくはありません。しかし人間のやる事ですから100%はありえません。

ですからネガティブな面や、インプラント治療が終わった後は何を注意しなくてはならないのかという話しをきちんとしておかなくてはなりません(もちろん入れ歯の時も同じですが)。治療を安易に考えていたり結果を急ぐとこのような不幸を招く可能性が格段に上がります。

私達はできるだけそのような事がないよう、インプラントのマイナスの話しもし、説明のうえ同意書を発行し捺印していただいています。しかしこのような事を行っている歯科医院がいったいどれほどあるのでしょうか?

これらができてさえいれば、不幸な事はほとんどなくなるはずなのですが。通常の保険治療と同様な考えでの自由診療が行われているケースが多いように感じています。そういうレベルではインプラントは危険ですが、インプラント自体が危険なワケではありません。

この特集の趣旨はわかるのですが、危険性も感じてしまいます。建設的な意見が出てくる事を期待します。明日以後の記事についても、できるだけ即日コメントしてみようと思います。


2010年7月19日月曜日

「むし歯治療の前に…」がダウンロードに



いろいろパンフレットを造っていますが、まずはこれから。今一番需要が多い、主にコンポジットレジンを使った「できるだけ削らない・神経をとらない治療」のためのものです。


治療とはやってみなくては解らないところがたくさんあります。治療を進めながらいろいろな可能性を求めて結果を出す、しかしそれが患者さんの思っていた通りになるとは限りません。

それから治療以前に原因が解決している、つまり磨けていないと始められないんですね。磨けていないのに 治療をしてしまうと …

  • 歯垢もいっしょに型取りされ、正確なものが造れません 
  • 歯肉から出血があり、型取りがうまくいきません 
  • 詰め物の接着がうまくいきません 
  • むし歯の再発が早い時期におきてしまいます
ほとんどの患者さんは、自分は口を開けて待っていれば治してもらえるんだと思っています。実はそこが大きな落とし穴なんです。

ぜひダウンロードしてごらんくださいね!

メインホームページをリニューアル(ちょっとだけ…)


はぃ、皆様はこの連休は何をしていましたか?吉田はもちろん「海!」と言いたいのですが、あいかわらず日本橋時代の資料(ゴミ!?)の整理、そして見辛かったメインホームページのリニューアルをやりました。ま、ちょっとだけですが…

オーバーコンテンツはもうしかたがないので、「Key Contents」として特に重要な部分をピックアップして並べてみました。それでも14項目もありますが…

どうでしょう、これで少しは見やすくなりましたでしょうか?まだアナボコ(Under Construction)だらけですが、夏の学会セミナーが終わった所で追加して行こうと思います。

2010年7月7日水曜日

ワールドカップを支えた裏方達〜気圧のお話

いいですね〜、こういう話し、好きです。

「圧力鍋が立役者」W杯日本代表の帯同シェフ語る【朝日新聞】

なるほど、高地ですからお湯を沸かしても100℃にはなりません。これではごはんもおいしく炊けません。戦う力はまずゴハンから、これ基本!

さらにこういう話しも。低い気圧に体をならすって大切です。

岡田ジャパン「高地対策大成功!」陰の立役者は...【読売新聞】

スポーツ選手が行う高地トレーニングってありますよね。昔マラソンの高橋尚子選手がアメリカのコロラドのボルダーという所で高地トレーニングをしていたというのは有名ですが、実はその地は私が幼少の頃半年間住んでいた町、なぜか思い出してしまいます。

今回のワールドカップは最初から高地なので、その対策をしていなかったらぜんぜんダメだったでしょうね。


私達が気圧を身近に感じる事はほとんどありませんが、たまに飛行機に乗った時や山に登った時に気圧が下がり、耳が痛くなるのを感じます。

逆に気圧が高い所、実は東京ドームなんかがそうです。外気より少し気圧を高くしてドームを膨らませています。だから入ると少し耳にきますよね。それからダイビングをする方は水圧で耳にきます。

**

さて気圧と歯は関係あるのか?実はある事があります。

気圧の変化でむし歯が痛くなる事があります。これは相当進行した場合、歯の中が化膿しているようなひどい場合はありうります。

それからもう一つ意外な事が。入れ歯が外れやすくなります!?実はこれは私達の患者さんなのですが、海外の高地へよく出かけるかたで、気圧の低い所に行くと入れ歯が外れやすくなるというのです。

最初は意味が解らなかったのですが、考えてみれば理由はこうです。その患者さんは上下とも総入れ歯です。総入れ歯とは口の中で顎の粘膜で吸盤のような力で貼り付いています。気圧が低くなると粘膜が膨張し、入れ歯が適合しなくなり、空気が入って外れやすくなってしまいます。

「先生、高地にいっても外れない入れ歯はできないかね?」と言われましたが、さすがにそれは無理。高地にいって型取りをしなくてはなりません。残念ですが諦めていただきました。。。

***

さて、さらにこんな話しも。


これは朗報!これも気圧と関係があります。ビールサーバーは気圧変化が大きく機内では使えなかったそうです。それを克服して、機内で生ビール!

うーん、意外です。そこまでして生にこだわる、気圧への人類の挑戦は知らない所で続いていたようです。けど1杯¥800〜1,000になりそうだそうです。どうしよう、、、

さて、だれか高地用総入れ歯を平地で造る方法、知りませんかね?

2010年7月3日土曜日

クインテッセンス誌のweb連動企画 第二弾


三橋先生との共同執筆、マイクロスコープ入門コースの4回目が掲載されたthe Quintessence7月号が発売になりました。もちろん今回もweb連動企画付き、私が担当した二回目も普通では見れない治療の動画を皆さんにもごらんいただけます。


本題は動画によるプレゼンテーションの方法についてなのですが、使っている症例は、ピンを併用した特殊なコンポジットレジンによる修復です。あれ、どっかで聞いた事があるなと思った方はスバラシイ!同じ題で以前からYouTubeでのVideoCastでもご紹介しています。もちろん内容は異なりますが。

ご覧になった事がない方はコチラ
↓ ↓ ↓ ↓ ↓

ぶつけて欠けててしまった歯の回復って、けっこう持たないんです。ちょっと盛っただけではすぐにはずれちゃいます。そこでピンの登場です。

ピンを使う方法は歯科医師ならだれでもご存知の方法ですが、失敗が怖くてなかなか手が出せない方法です。しかし顕微鏡を覗くとけっこう安全にできるものなんです。このような治療は私達の得意分野でもあります。

もしピンがなかったら、大きく削って人工の歯を貼付けたりしなくてはなりませんね。継ぎ目は出ますが、見た目に問題がなければこれでぜんぜんOKです。

ピンを使った症例はできるだけ歯を削らない治療、工夫次第ではこんな事もできてしまいます。ありがたい時代です。

2010年7月2日金曜日

「プロフェッショナルの条件」を読んでみたが・・・


朝のスタバ、昼のドトール、そして夜のセガフレードザネッティ、、、寸時を惜しみ、やっと読みきりました。ドラちゃんことピーター・ドラッカー先生が「個人がいかにして成果をあげるか」に特化して編集した名著、プロフェッショナルの条件(ダイヤモンド社)です。

なかなか辛かったですね、訳本とはこういうものですが日本語として不自然。筆者の意図を壊さないように訳すのはたいへん、かと言って原著を読むのは不可能。文句をいっちゃぁいけません。


しかし本当に辛いのはその中身。多くの人が宗教の如くドラッカーに傾倒して行く中、私には数々の疑問が湧き上がります。およそ医療の現場には当てはまらない文章がたくさんでてきます。なのに実例として病院は何回も出てくる(最後の方では本当に歯医者が出てきます)、ならば日本の歯科医院だけが特殊なのか?そんな気もしないではありません。

知識の仕事への適用、知識労働者たること、得意分野に集中し古いものは捨てる、知識だけが意味ある資源であると言いきる、そしてそれがイノベーションである、、、私にはとても乱暴な表現に聞こえます。

確かにこの一冊を読んだだけで、ドラッカーが昨今の経営セミナーや自己啓発系セミナーの原点になった理由が解ります。「選択と集中」「時間管理」「成果と目標」など、その手の話で必ずと言ってよいほど出てくるキーワードは、実はここから出てきたんだなと思わずニヤリとしてしまいます。

そしてもちろんそれらが腑に落ちなかったのと同様に、当然本書もどうもひっかかる所が多すぎます。

**

本書は一貫して「知識労働者」たる者の考え方や行動について述べています。そしてその対局にあるのが「肉体労働者」です。成果をあげるためには何が要るのか、解りにくくも伝わってきます。生産性の向上の仕方が解明されほぼ達成された今日、成果を上げるにはあえて肉体労働をする必要はないという事です。

では肉体労働の必要性は何でしょう?存在意義はどうでしょう?それは知識のない者がする仕事なのでしょうか?そして彼らの手にする成果とは価値が低く低賃金でもしかたがないという事なのでしょうか?私はそれはとても危険な思想であると思います。

仕組みを造った者が勝ち・自分は好きな分野に集中し後は他人に任せる・不労所得者を目指せ、自称コンサルさんが良く言う事です。ドラッカーの言葉を真に受けると確かにこのようになるのかもしれません。

たしかに人間何歳までも肉体労働ができるわけではありません。しかしみんながみんな知識労働者に走ったら、実際に行動する肉体労働は誰がするのでしょう?すでにある職種では、外国人労働者に依存せざるをえなくなっています。彼らには最低の知識しか必要ではありません。

私は思います。実際に行動するのは肉体労働者、肉体労働がわからない者に知識労働はできないと。巨大な組織ならともかく、小さな歯科医院などでは全員がトップアスリートの様に頭と体が同時進行、そして瞬時の判断が成果を左右します。

医療や介護の現場はほぼ肉体労働者で成り立っています。およそ知識労働とは言えない状況です。そしてその仕組みを造ったのは、現場を知らない知識労働者です。詳しくはありませんが、農業もそんな感じに見えます。必要性は誰もが理解していながら低賃金で労働条件が過酷であること、そして自然が相手である事で共通しています(このへんは異論がある方が多いでしょうね)。

医療や農業が日本では衰退産業になっている、そんな事はないという人に言いたい。あなたは進んで自分の手を汚しているか?火中の栗を拾う仕事をしてるか?わざと下手に出て、実は高見の見物をしていないか?

***

ドラッカーの言う事をそのまま日本の歯科医院に当てはめるとこうなります。正しいものもあれば、そうではないものもあります。

【古いものを段階的に廃止し、成果が上がる事に集中する】
これはいろいろなパターンが考えられますが、
  • 保険診療はやめて、自由診療に特化する
  • 苦労のわりに報われない根管治療はやめて、抜歯してインプラントにする
  • 患者さんに解りやすい審美歯科に特化する
  • 根管治療や歯周治療はせず、直ちに連結ジルコニアクラウンを装着する(最近こういう治療が増えています・・・)

【知識労働者になる】
  • 歯科の保険医療はあまり選択の余地がなくほぼワンパターンですから、肉体労働者に極めて近くなります。もしかしたら効率の点では良いかもしれません。しかしやりがいは少なく、スタッフの入れ替わりが激しいのは当然です。もっと皆が考え、患者さんのためになる事をやり成果をあげたい、しかし日本の歯科医療はそれを許しません。
  • 院長はしだいに経営者になって行き、現場から離れて行ってしまいます。
【同じ種類の仕事を続けるのは長すぎる】
大きな組織で新陳代謝が必要な所ではそうですが、個人経営者は同じ仕事を40~50年続けざるを得ません。しかしそこにも価値があるはずです。長く続ける事が迷惑な職種とそうでない職種がある事を忘れていないでしょうか。

・・・とまだまだいろいろありますが、このへんにしておきましょう。

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訳者は巻末でこのように述べています、「ドラッカーは、常に正しい」。

ネット上には本書の書評がかなりありますが、ざっと見る限りは私のようなものの見方をしている人はおられないようです。

本書は先見性がありひじょうに示唆に富んだ内容であるものの、両手を挙げて素晴らしいという感じではありませんでした。大きな営利組織と小さな歯科医院、あるいは医療介護の現場との隔たりはあまりに大きいと実感させられた一冊でした。

これは非営利組織の経営も読まなくてはならないようです。ドラッカーの本の中では最も人気のない本らしいのですが、なんとなくうなずけます。

さて、成果をあげたくてもあげる事が許されない、必要なのに誰もやりたがらない、今日本はとても危険な思想が幅をきかせているように見えます。

ドラッカーはポスト資本主義社会は知識社会であると述べています。そしてこの本を読む限り肉体労働は価値が低いものとみなしています。しかし私の意見は違います。知識と肉体が高度に集結し、一人一人がトップアスリートのようになる事、ポスト資本主義というものがあるとすれば、そういうものではないのでしょうか?「資本」とは決して金融資本だけではないのですが。

p225でドラッカーはこう述べています。

先端的な場所にいる者は
自らの知識を理解させる責任を負うとともに、
そのための大変な作業を進んで引き受けなければならない

先端的な場所かどうかはわかりませんが、今私達はまさにこれを実行しています。まだまだ力がたりませんが、徐々にお伝えして行こうと思っています。

ワケあっていろいろな本を読んでいますが、少しずつ感想を書いて行こうと思います。あ〜、長くなっちゃいましたね〜