2010年7月26日月曜日

「インプラントで困ったら」が困った(4)

4回目はコストの問題です。この記事を読んでオーバーデンチャーを希望する患者さんが増えると思いますが、もちろん注意しなくてはならない事があります。

【医療ルネサンス 読売新聞】

確かにインプラントはコストが問題になります。小さな車一台分のコストがいきなり必要ですと言われたら、ほとんどの方が「ウ〜ン」という事になってしまいます。それを緩和する方法の一つとして、オーバーデンチャーが紹介されています。

「デンチャー」とは入れ歯、そして「オーバー」とは歯やインプラントの上に入れ歯が乗っかっている状態です。つまりオーバーデンチャーとは歯やインプラントの上に入れ歯があり、歯やインプラントが入れ歯を支えている構造です。たとえばこんな感じです。

写真左側の2本がインプラント、右側3本が自分の歯
4箇所にマグネットを付けて入れ歯を固定します
オーバーデンチャーの目的はコストダウンではありませんが、確かに通常の完全固定式(自分では取り外しができない)に比べれば安価に仕上げることができます。入れ歯に躊躇しない方には良い選択肢であり、文中にあるように外して他人に磨いてもらう事ができるのは大きな特徴です。

しかし気をつけなくてはならない事もたくさんあります。外して磨けるといってもインプラントが外れるわけではありません。口の中の手入れが必要なのは変りません。

それから歯やインプラントは入れ歯でスッポリ覆われてしまいますので、これは理屈でいえば歯周ポケットが深くなったのと同じ事になり、むし歯や歯周病の菌が一機に増えてしまいます。インプラントはむし歯になりませんが、歯はちょっと油断しているとすぐにむし歯になってしまいます。手入れが悪ければ固定式より早く歯周病が進行し、もちろんインプラント周囲炎も格段に進みやすくなります。だからぜんぜん安心ではないのです。

オーバーデンチャーの良い所は、入れ歯自体を小さく造る事もできることです。通常の入れ歯はある程度の大きさがなければ安定いたしません。しかし歯やインプラントにマグネット着ければ外れにくくなるので、入れ歯自体を小さく造ることができます。

中ほどをくりぬいた、馬蹄形のオーバーデンチャー
また歯やインプラントに「噛む重さ(咬合圧っていいます)」を負担させれば、痛くない入れ歯を容易に手に入れる事ができます。その結果、歯がある時代のように力を入れてしっかり噛めるようになるのです。

しかしそこが落とし穴で、そもそも入れ歯とはプラスチック製なのでたいへん破損しやすいものです。噛める入れ歯は壊れる、これはある意味常識です。オーバーデンチャーは力を入れて噛めるために、設計にそうとう配慮しないとすぐに壊れてしまうのです。

破損したオーバーデンチャー
普通の入れ歯は噛む重さを粘膜が負担します。しかしオーバーデンチャーは咬合圧のほとんどを歯やインプラントが負担しますので、当然その付近から破損してきます。

そこで考えられたのが「可動性磁石」というもの、このビデオをご覧になれば解る通り、磁石がフリーで上下します。


これを組み込んだ入れ歯は、咬合圧が歯やインプラントには加わらず、従来通り粘膜が負担します(ですから入れ歯は従来通りある程度の大きさが必要です)。しかし入れ歯が外れる力には、マグネットが着いた歯やインプラントが対抗します。これにより歯やインプラントのみに強大な咬合圧が加わる事はなく、破損が防止されます。

またマグネットが動くということは、入れ歯が動いてもマグネットは追従せずくっついたままなので、外れにくい入れ歯になります。完全固定式のマグネットは、僅かな入れ歯の位置ズレでマグネットの吸着力がゼロになってしまい、パカパカになるケースが多いのです。記事のようにピッタリ行くのは実はけっこう難しい話しなのです。

文面ではオーバーデンチャーは比較的安価で効果も素晴らしいもののようですが、良い事ばかりではありません。しかし通常の入れ歯の注意+歯磨きや破損に注意すれば、快適に使えるでしょう。