2010年6月1日火曜日

インプラント手術は誰がする?


最近あった困った話しを2つ。程度の差こそあれ、根源的なものはどちらも似ています。あえてご紹介したいと思います。


旧知の某メーカーの営業さんから相談を持ちかけられたのは、去年のデンタルショーでの事でした。聞くと最近インプラントの埋入手術を受けたそうで、私は彼の歯がいかに悪いかを知っていたので、やっと踏み切れたのかと思い一瞬安心したらそうではありません。埋入があまりにお粗末で、どうしたら良いのか困っているというのです。

最初はどういう意味なのか解らなかったのですが、その場でコンピュータを広げて見せられたCTには、なるほどこれは困ったなという画像が写っていました。入れたばかりのインプラントだというのに、骨から大きくはみ出していたり、隣の歯と接触していたり、そして10mmのインプラントがなぜか5mmしか入っていなかったり。なるほど、これはおかしいです。

冷静に考えればこれは失敗とまでは言いません。しかし言い方は悪いですが、まるで初心者が練習で行ったかのような施術です。ところがこの手術、大学在籍のインプラント科の先生が行ったと言うのです。にわかに信じられません。

インプラントと骨の関係は外からは見えません。ですから何があっても患者さんには解かりようがないはずです。ではなぜ発覚したのか、それは手術中に、その手術をしていた先生と院長先生との会話がどうもおかしく、不信感を持った事に端を発します。

この患者さんは歯科メーカーの方ですから、かなりの歯科知識をお持ちです。そしてCTをお持ちの先生を何人も知っています。で、そこで自身のCTを撮影してもらったのだそうです。それも複数ヶ所で。

私は最初は興味本位で見ていたのですが(ゴメンナサイ)、だんだん事の重大さに気がついてきました。問題はこの手術担当の先生がどのうような気持ちで手術に臨んだのか、そしてそこの院長先生はどのような条件で手術を依頼したのかです。

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2つ目の話しです。これは私の所ではないのですが、インプラント埋入手術を受けてから3ヶ月たった患者さんが初診でお見えになったのだそうです。

レントゲンを診ると、きれいに2本のインプラントが入っています。これから二次手術をしてインプラントの上に冠を乗せる手立てになるはず。ところがそこにはもう行かないというのです。なぜ?

で、こちらも手術をしたのはそこの院長先生ではなく、依頼で大学病院から来てもらった先生なのだそうです。詳しくはわかりませんが、その手術担当の先生と何かあったそうです。

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2件の話しに共通するのは、その院長先生は以前はインプラント手術を手がけていたのですが、最近は忙しいのか手術を任せており、大学からそれこそ敏腕の先生に出張してきていただいて施術している事です。もちろんそれ自体は何も悪くはありません。問題はその依頼された先生が、どのような気持ちで手術に望んだのかです。

はっきり言えば、依頼された先生はアルバイトです。大学の給与とはサラリーマンの初任給以下(!)ですから、皆何かしらのアルバイトがなければ生活できません。出張インプラント手術は良い収入源になることでしょう。

しかし大学の手慣れた先生と言えども、手術準備はたいへんです。ちょっと顔をだしてすぐに手術ができるというほど簡単ではないはずです。しかしもしそんな事があったとすれば、この2件のトラブルは十分起き得る事です。

インプラント治療はその診断や治療計画の立案にはかなりの時間を要します。そしてそれらを患者さんと協議し、同意書にサインしてもらわなければ手術に入れません。例えば私はこれらをすべてを自分で行っています。

しかし分業体制になるとこうは行きません。だれがどこを担当するのか、責任の所存はどうなるのか、難しい事だと思いますが最終的に責任は院長先生にあるはずです。ですから院長先生は手術担当の先生をきちんとマネジメントする必要があります。2件ともそれができていなかった不幸があるように感じます。

さらに1件目は準備不足か連絡の不備による不完全な結果まで誘発してしまいました。修正はできません。

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私もたまにですが出張手術に行っています。しかしこれはアルバイトではなく、先輩を助けに行っているつもりです。準備はたいへんですが、先輩は私の考えや手順をよく汲んでくれているので事は順調です。私はそこにどんな機材があるかを知っていますし、今では顕微鏡もあるので安心です。

患者さんとは手術直前に顔を合わせるのでお互い緊張します。しかしその間には先輩である院長先生が入り、マネジメントをしています。もちろん手術は私に丸投げではなく、治療計画の相談・準備からスタッフ教育、そして手術助手に入ります。ここまでしなくては出張インプラント手術はできないと思っています。

現在インプラントの信頼性はそうとうな所まで上がりました。ヘタをすると、自分の歯より良いのではないかと錯覚しそうになります。それだけに安易な施術や依頼が増えているのではないかと思います。

インプラント手術は誰がするのか、技術を持った人がするのは当然ですが、そのためにもう一つ大切な事があると思います。

今回たまたま分業体制の問題点に2件遭遇しました。それぞれが得意分野に集中するのは良いかもしれませんが、それだけで治療が完結するわけではありません。他との連携がなければ強みは活かせません。それを取持つシステム、すなわちマネジメントが重要な事が改めて浮き彫りになりました。

という事で、しばらくドラッカーから抜け出せそうにありません・・・