2011年8月14日日曜日

採血・2


コチラからの続きです。採血にまつわるお話を少し。

歯科とは事実上小さな手術の連続です。その中でもインプラントや歯周病の手術・歯根尖切除・埋まっている親知らずの抜歯などはそこそこの外科手術となります。気になるのがやはり患者さんの全身の状態です。

患者さん自身が自分の状態に詳しければ良いのですが、残念ながらそのような方はほとんどおられません。それどころか、どうも他人事のように避けている方が多いのが気になります。

そこで私たちは直近の血液検査のデーターをお持ちいただくか私が採血をし、安全を確認してから手術に入るようにしています。これにより隠れ糖尿病や肝機能障害が発見される事もあります。ですからこれを拒否される方の手術はお断りする事になります。


これは著書にも書いたのですが、まだ血液検査を実施していない頃、糖尿病である事を隠し続けていた患者さんの治療で大苦戦してしまった事があり、もう二度とこんな事はゴメンと思い実施しているものです。私が行うインプラント外科系セミナーで必ず採血の実習があるのはそのためです。

それからもう一つ、採血をしてそこからPRPとかPRFと言って、血液のある成分を濃縮して再生を加速しようという方法があります。採血はもはや小さな歯科医院でも必須といえる時代となっています。


さて十数年前ですが、採血を始めたいと思ってもやったのは学生の頃の相互実習だけ、ちょっと自信がありません。しかしちょうど患者さんに日赤献血センターの看護婦さんがおられ、その方がとっても親切な方で、一生懸命教えてもらう事ができました。

私は彼女の職場まで赴き、実際に自分の血を採ってもらったのですが、それはもう当たり前ですが本当に上手い!私は血管が見えない方なのですが、「血管は見てはダメです。触れて探り当ててくださいね」と。は〜、そうか、とこんな事も知らずに採血をしようとしていた自分が恥ずかしくなりました。

針を刺す時の事故もゼロでは無い事も教わりました。血管は神経と寄り添って走っていますので、シビレがないか気をつけなくてはなりません。それから私達がいつも行う麻酔と同じで、痛みでショックを起こす方もおられる、だから逐一声をかけて安全を確認してから行う事が重要です。

ただしこれが出来ない、いや、やってはいけない場所が一つだけあるのだそうです。それは宮内庁で行われる皇室の方々の採血。これは書いていけない事ではないと思うのですが、皇室の方々には話かけてはいけないのだそうです。そっと一礼をし、スッと針を刺し、無言で採血をし、終わったら一礼を… うーん、私は安全の方が大切だと思うのですが。10年以上前にお聴きした事なので、今はさすがに違うかもしれませんが。

とにかく医療の現場の「雰囲気」とは大切です。採血で痛い思いをする以上、周りは明るく、しかしキチンとしていなくてはなりません。それさえあれば緊急事態はかなり避ける事ができるでしょう。


ところがところが、私は一度だけ失敗!!!した事があるのです。それは診療ではなく、相互実習の時に起きたのです。

私は受講者には事前に「採血の相互実習があるので、この資料を当日までに読んでおいてください、なおこの実習は拒否する事ができます」との文章を事前に全員に送るように主催者に頼んでおきました。ところがこの通知を受け取っていない方がいたのです。

当日いきなり採血をしますと言われた方はビックリしますよね。「え〜、聞いてないよ!」って。もちろん拒否できる事も知りません。しかし私は当然全員が知っており同意したものと思って実習に入ってしまったのです。

採血の概要を説明し、ビデオを見せ(上の写真はその一コマです)、デモをし、「では二人一組で始めましょう!」、と相互実習が始まりました。

ところが10分ほどすると、会場の奥の方が何やら様子がおかしい。行ってみると1人の先生が椅子にうなだれ、顔面蒼白で息が浅く早く、意識がもうろうとしています。脈を触れると明らかに弱い、「いかん、疼痛性ショックだ!」、先に書いた痛みによるショックでした。

幸い短時間で回復して良かったのですが、相方の先生の話で事前連絡が無く突然言われた事がわかったのです。もちろんそれを確認せずに強行してしまった私が悪いのです。とにかく何かしら痛みを伴う処置をする時には、時間に余裕を持ち慎重に慎重に事を運ばなくてはなりません。もう大々反省でした。



私達は治療中には患者さんに何回も声をかけます。治療中の患者さんは孤独です、逃げ場がありません。顔にタオルをかけていますから廻りは見えませんし、私達も表情がわかりません。

でも声を頻繁にかける事によって「あなたは1人ではないですよ、私達がついていますよ!」と意思表示をします。場合によってはウルサイくらい声をかけていますが、このような理由があるからです。

さらに採血というと、患者さんには「なんで歯医者で!?」と不思議がられるのが普通です。しかしいろんな困難を乗り越えてでも、血液から解る事は本当にたくさんあります。

みなさん献血や健康診断で検査データーをお持ちになっていると思います。簡単な事で良いので、それらがどのような意味を持ち、何を教えてくれるのかちょっとだけ覚えておいてほしいなと思うのです。


しかしもちろん検査結果が全てではありません。検査項目は人間が知っている生命の仕組みのごく一部にしかすぎず、結果が良かったからといっても安心してはいけません。例えば西洋医学的に診て異常がなくとも、現代人のほとんどの方が東洋医学的には「未病」という状態です。これについてはまたいつか。


さあ、貴方もこの前の健康診断の結果を引っ張りだして見てみましょう。それはいったいどういう意味なのでしょうか?大切な自分の事です、みんなに興味を持ってもらえたらなと思うのです。ちなみに私の結果は、飲酒翌日であったにもかかわらず、セーフでした。



いつまでもこのような状態が続くよう、まず自分が率先して健康に配慮して行こうと思います。

ところで先の実習で倒れる寸前だった先生ですが、採血を試みた相手の先生は実は奥様だったのだそうです。それでもショックを起こしてしまうのですね。いや、だから起こしたのか?そんな事はナイと思うが。。。