2011年1月13日木曜日

久しぶりの抜髄(神経は取らないという選択肢)

よくある歯の治療の一つに「抜髄」というのがあります。髄を抜く、つまり歯の中の神経(歯髄)を抜く(取る)と言う事ですね。聞いただけで恐ろしいです。。。

歯が痛いので神経を取る、実はこれはしかたがない事です。感染が成立し痛みが出てしまった歯の神経は、もう二度と元にもどる事はできません。これは取るしかありません。

ただし神経を取っても、歯本体はまだ使えます。きれいにくり抜いてあげれば立派に使えます。それがよくある歯の治療というものです。簡単ではありませんが、ちゃんとやればそこそこ使って行く事ができます。

けど取らないに越した事はありません。神経とは言いますが、実際には神経+血管。これらが無くなると、つまり抜髄した歯には水分の供給がなくなります。枯れ木のようになり、脆くなります。補強のために芯を入れたり、冠を被せるのはそのためです。

しかしやはり神経をとった歯を一生使い続ける事は難しいようです。感染が再発したり、被せものが取れて虫歯が広がる、歯本体が折れる、などなど患者さんから見れば理不尽な事が日常的におきています。

ですから私は「神経をできるだけ取らない治療」を推進しています。顕微鏡と水酸化カルシウム、この組み合わせは通常神経を取らなくてはならないと思われる歯に新たな可能性を提供します。条件は「まだ痛みがたいして出ていない時」に限られますが。

既に私たちの所でこの方法で救われた歯は何十本にもなっています。設備と時間、そして有能なスタッフがいれば、是非ごチャレンンジしていただきたい治療の一つです。ですから去年私が行った抜髄は10ケースもありません。保存できるケースがかなり増えて来たのです。



ところが先日、この抜髄をとっても久しぶりに行いました。場所は私の診療室ではありません、他の所でです。もし私の診療室であったなら、保存にチャレンジしたかもしれません。しかしそれはそこではできません、やむを得ないケースでした。とっても残念ですがしかたがありません。泪を呑んでやるしかない、それが患者さんのためなんですね。

神経を取らない選択肢があります。それはうまく行かないかもしれません。しかしチャレンジし甲斐のある事です。歯を抜かずに残せる機会が増えているように、神経も抜かずに残せる機会が増えています。患者さんにはそれぞれいろんな都合があるものですが、あまり短絡的にならず、無理のない範囲で可能性を追求できる余裕が欲しいものだと感じます。

しかし「神経を取る」とは、普通に考えてもあまりに恐ろしい言葉ですね。しかも歯科にはそれしか手がなく、年間何万本もの神経が抜かれているとは異常です。内科で「頭が痛いんですが、、、」と言って、頭の神経を抜かれる事は絶対にありません。ムシ歯とはそれほど恐ろしい病気なのです。