著者は橋本保雄さん、ホテルオークラにこの人ありと言われ、創業前から同社を引っ張っていった辣腕経営者、のちの副社長さんです。ホスピタリティーを地で行く数少ないホテルマンとして数々の活動をされていた方です。
その橋本さんが一患者として歯科会に提言する、なんとも興味深い一冊ではありませんか。
この本は限定版だと思うのですが、GC社の規模を考えると配られた数はかなりの部数、読んだ先生は多いと思います。
しかしこのタダで貰ったような本をすぐに進んで読むほどのモチベーションは私にはありませんでした。ところが何を思い立ったか、10月頃から突然この本を読み出し、やっとこの度最後まで行き着きました。はっきり言って、もっと早く読めば良かった。。。
時代はまだマンダリンオリエンタルもリッツカールトンも東京には無かった頃、今でこそホスピタリティーやクレドを持ち出す経営者は多いですが、それを受け売りではなく、自ら考え実行しここまで来たとは驚きです。そんな橋本さんの文には歯科界への意見がいっぱいです。
だいたいホスピタリティーという言葉自体、ホスピタル(病院)から来ているわけで、しかしそれをすっかり他業界に盗られてしまっているのが今の医療界です。それを取り戻すためのアイディアが本書にはいっぱいあります。技術は当然だが、それと同じくらい大切な事があると教えてくれます。超一流のホテルマンから見れば歯科はなんと幼い事でしょう。
それは確かに古い内容もいっぱいあります。氏の実家は仙台の内科医、同じような考えで今の歯科を見ている所があります。例えば歯科医院の仕事を「痛みをとること」と定義しています。しかしそれは遅すぎで、痛みが出る・不便になる事が予め解っている事に対しいかに理解を求め先手を打つのかが今の私たちの使命です。
しかしそれならなおさらホスピタリティーを全面に出し、患者さん(クライアント)に受け入れていただきやすい環境を造る必要があります。幸いな事にそのような事を求めている人は確実に増えています。でなければ私たちの所に顕微鏡やCTでの診断依頼が来るはずはありません。
さて残念な事に、橋本さんはこの本を出された直後の2006年8月にご逝去されました。享年74歳、せっかくこのような本を出されたのですから、もうちょっと長生きしていただき一度くらいは話を聞きたかったものです。
このようなすばらしい方が最後に日本の歯科界に提言してくださったことは本当に光栄です。遅くなってしまいましたがこの本を繰り返し読み、今の自分たちに何が必要なのか、よく考えてみたいと思います。