2010年9月6日月曜日

歯科医療の未来

先週はお客さんが相次ぎまして、診療後もバタバタするも楽しく有意義な時間を過ごさせてもらいました。いただきものをしてしまいましたので、まずはそのご紹介。

まずはいつも無理なお願いしている歯科技工所の社長さんとナンバー2の方がお見えになりました。ごちそうさまです!


京利休 みつ豆と栗かのこ

一方、10年来の患者さんが知り合いの方の紹介で、これから開業を目指す7年目のドクター(若いな〜)をお連れして見学に来られました。こちらもごちそうさまです!


別におねだりしているわけではないのですが、ありがたい話しです。


さてたまたま同じようなタイミングで来られた二組のお客さん、何の話しかなと思えば、やはり昨今の日本の歯科事情について。それぞれ異口同音に窮状を訴えます。しかし私に訊かれてもね〜

歯科技工所さんの立場とは非常に弱く、たとえば製作物の適合が悪いと全部技工所のせいにされてしまいます。一方で出来が良いとそれは技工所ではなくすべて先生の手柄にされてしまいます。これでは現場の覇気は上がりません。

この技工所の社長さんは海外での経験が長く、日本とのギャップの激しさ、率直に言えばレベルの低さに悩み続けています。

例えば型取りをするとき、私達は自由診療であれば例外なく
歯肉圧排をしてからシリコン製の型取り材を使います。これは精度をあげるために絶対に譲れない部分で国際的に常識です。

しかし日本の多くの歯科医院では自由診療といえども保険診療と同じ材料を、すなわち寒天とアルジネートと呼ばれる海藻を主原料とした材料が用いられているそうです。これは決して悪い材料ではないのですが、歯肉の中の深い情報が取れないなど精度を追求するうえで決定的な弱点があります。

そしてもう一つ、副模型を造る事ができないという問題があります。これはどういう事なのかというと、シリコンは同じ型から石膏模型を複数ヶ造る事ができます。もちろん2個目は1個目より精度がわずかに落ちるのですが、この2個目を用いて制作工程で生じる誤差を、具体的には隣の歯との間隔を極限まで合わせる事ができます。

その結果、この技工所さんが今造ってくる冠や詰め物は、ほぼ無調整で患者さんの口の中に適合します。これはとても難しい事なのですが、それをこちらが要求せずともやってくる彼らの仕事を私は高く評価しています。

通常は出来てきた冠などを患者さんの口の中に入れては取り出し、削っては入れての繰り返し、つまり型取りした情報を完全に再現したものができ上がってくるわけではなく、かなりの誤差を持って納品されます。

シリコンの型取り材はコストが高く、扱いも難しく時間もかかるために保険中心の日本の歯科医療ではあまり普及していません。自由診療といえども患者さんの目に見えない部分はコストや品質を落してもかまわないという経営判断があるのでしょう。これは私達が考える医療とは根本的に違います。ご参考までに…

【吉田歯科診療室 自由診療とは何でしょう?】

この技工所さんはそこそこの規模なのですが、シリコン型取り材による受注率をお聴きしたところ、何%だったと思いますか?あまりの低さにここでは言えない程です。だから私なんかの所に意見を訊きにおいでになったという訳です。空いた口が塞がらなかったのはひさしブリブリです。歯科医療の窮状を新しい視点で感じました。

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一方のこれから開業を目指す先生。先生には私が一番信頼しているコンサルさんを紹介しておいたのですが、先日お会いしたそうで良い話しが出来たとご報告をいただきました。だけど内心は心配がいっぱいでしょう。実は最近こんな記事がでておりまして…


【PRESIDENT】

歯科の悲惨な現状を面白おかしく綴った心無い記事ではありますが(これについてはまた後で)、残念ながら的を射ています。

歯科医療は国策として優先順位は低く、重要性はまったく認められていません。国は歯科医療とはこの程度で十分と考えており、諸外国並の治療水準にあげるのは到底不可能です。その悪条件の中で皆一生懸命患者さんの事を考えて治療しているのですが、予算が1/8では限界です。

私は歯科医師は多すぎるとはぜんぜん思っていない事を彼に言いました。なぜなら病人があまりに多いからです。医療が奏功し病人がいなくなった時に始めて歯科医師過剰と言われるはずですが、そうではありません。正しい情報が世の中に伝わっていないのです。


さて2件のお話から改めていろいろ考えてみました。

多くの医療機関は財政難と人材不足で、医学的に正しい医療が思うようにできません。できるのは自由診療の場合のみですが、これも混合診療という日本独自の解釈に行く手を阻まれます。もちろん患者さんの支払能力の違いは深刻です。

だからといって私は1985年までのタダのような金額で医療が受けられる制度が良いとは思っていません。むしろ悪い事だと思っています。日本人は健康の価値観を凋落させた健康保険制度の悪影響からいまだに抜け出せていないからです。医療費負担を軽くすれば通院者が増え、病人が減るだろうという理屈にもまったく賛成できません。

必要なのは本当の意味での「保険」を目指す事につきると思います。日本人は結果の平等性を求める傾向にあります。いわゆる護送船団方式で、一番レベルの低い部分にすべて並ばせようとします。しかしこれでは救われる者も救われません。

必要なのは「機会の平等」です。誰もが医療機関に受診できるよう敷居を下げる、その上で医師の助言を守らない者は保険適用から外す、たとえば喫煙者の肺癌の治療はできない、生活習慣が改善されなけでば糖尿病の治療はできない、そして歯を磨く努力をしなければ歯周病の治療はできない、、、当然だと思います。

なるべくしてなった自己責任のある病気にまで保険を使ってしまう(歯科は特にこれが顕著)、あるいは不完全な医療制度であるがゆえの再治療や再々治療にまた財源を使う(これも歯科の特徴)、財政がおかしくなって当然です。

保険なのですから本当に運のない不幸な人にだけ手厚く受給されるような仕組みにすればいい、難病患者が薬が高くて治療できないなんてバカな制度は保険ではありません。それがなぜできないのか理解できません。

しかしこのような制度に変る事はありえません。ではどうするか?これは自己防衛をしていただくより他はありません。

「悪くなったら医者が治してくれる」という幻想を捨てる、そして自分を知り病気を知る、そのような健康教育こそ重要だと思うのです。理解こそ妙薬、それを患者さんにも自分にも徹底する、そのような事を日常実践する事が幸せを呼び込むものだと思います。そして微力ながら私はやってきて、今ここにいます。

こんな私を頼りにしていらっしゃってくださった方の参考になったかどうかはわかりませんが、私達の所で実践している事が何かの役にたってくれればと願うものです。