2009年8月2日日曜日

歯科医師は本当に過剰なのか?

すでにご紹介しました週刊朝日MOOK Q&Aでわかる「いい歯医者」、お手にとっていただけた方も多いようです。だいぶ反響があるようで、一般向けにここまで突っ込んだ内容の本はまさに完全保存版ですね。

おそらく今までタブー視されてきた問題にもズバリ切り込んでいる事もすばらしい。しかし、一点非常に気になったQ&Aがあります。4番目の「歯医者が余っていると聞いた」は一般論ではあるものの、私の見解とは大きく異なります。


歯科医師過剰の問題は今に始まった事ではありません。少なくとも20年以上は言われ続けてきた事です。なのに有効な手が打てないまま一般的な歯科医院の収益は悪化を辿り、今では歯科医師とは魅力ある職業とはおよそかけ離れた存在となっています。本年度の大学歯学部の著しい定員割れは、他学部のそれと比較しても目を覆わんばかりです。

しかし「過剰」とは何でしょう?歯科医師が余っているとは、イコール病人がいないという事なのではないでしょうか?

しかし現実的に病人はたくさんおれます。病人なのに患者にならない、それも我慢しているのではなく必要性を感じていない人が多いと言う事が問題なのです。

歯科医師が増え、医療がすべての国民に正しく奏功し、病人がいなくなって始めて「過剰」だと言われるはずです。ヘンだと思いませんか?

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病人がいるのに過剰、これは治療の必要性がまったく理解されていない、あるいは歯科治療の優先順位が極めて低いという事です。言換えると「歯科治療とはこの程度でよい」と考えられており、それを基準に保険は決められているのです。国の規格である健康保険の物差しで測れば、歯科治療とはこの程度で良いわけです。

すなわち再発の原因は放置され、治療は5年程度でやり直しが続き、一生再治療の悪循環から抜け出せません。つまり歳をとれば入歯になるのは当り前で、そんな事に何の疑問も持たないのが保険の基本理念です。ですから「悪くなったら医者が治してくれるはず」とタカを括られてしまうのです。

保険料を毎月徴収されているとは言え、確かに保険は安いです。ちょっと考えればだれでも解るように、激安以上です。

これが国が用意したビジネスモデルであり、それにいつまでも甘んじて経営努力を怠ってきた歯科界の過ちがあったわけです。いわゆる親方日の丸、公共事業と変りません。そしてその安さを武器に、看板だけ出していれば勝手に患者さんが集まってきた良き時代(?)があったわけです。


歯科医師は決して過剰ではありません。過剰なのは「保険医」なのです。しかし保険医には誰もがなりたがります。それは安さを武器に患者さんを楽に集める事ができるからです。

しかし全体として歯科界は保険という目先のビジネスモデルに甘え、歯科医療本来の大切さを訴えるタイミングを逸しました。そして他の産業に優秀な人材をとられ続けてきたツケが廻って来たのです。

私は歯科医師過剰などと言う前に、保険の限界を正しく伝え、健康を自分で守ろうとする行動が文化となるよう医療が支援する必要があったと思うのです。誰もが健康の大切さや難しさに気付けば結果として医療費は下がり、生産性の高い国家が持続していたでしょう。その結果病人が減った時はじめて歯科医師過剰と言われれば、それが本望なのではないでしょうか。

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47 News(河北新報)にも報道されているように、一般的な歯科医院の収益は危険なほど悪化しています。機器の老朽化・人員の削減など医療の安全に直接関わる質の低下が無視できないほど露呈していると言う事です。

皆様に知っていただかなくてはならないのは、保険だけで全うな歯科医療が提供出来る事はありえないという事です。どこの歯科医院も保険の赤字を自由診療で補填しています。しかし自由診療の利点や必要性はほとんど理解されていません。

私も保険医の一人ですが、保険を使ってすべてを治療しようとは思っていません。それは保険治療が患者さんを幸せにできるとはとうてい思えないからです。それは既に多くの高齢者の方々の口の中を見れば明らかです。保険医療は健康を維持するには全く役不足だったのです。


ですから私達は歯科医療が文化に昇華する事を支援します。それが「メンテナンスを標榜する、ただ一つのクリニック」である私達の使命であり、オープンセミナーの目的です。

インプラントや矯正だけが評価される偏った歯科医療ではなく、予防や小さなむし歯治療も同じ価値観で接する事で社会に微力ながら貢献する事が私達の喜びです。

上に立つ人は歯科医師が余っているなどという認識を捨て、国民に理屈抜きで評価される歯科医療に変える努力をしてほしいと思います。であれば私は今こんなに苦しまなくてすむんですがね。。。