2010年4月11日日曜日

解りきっている事こそ大切に 〜日経ビジネス 徹底予測 を聴く〜


ネタとしてはだいぶ古くなってしまって申し訳ない、もっと早く書きたかったのですが、今さら登場したこのCDは去年の12月に送られてきた「日経ビジネス 2010年を徹底予測」というもの。いわゆる販促モノですが、さすがに内容は興味深いものばかりです。

早いもので今年も1/4が過ぎてしまい、このCDの内容にアタリハズレが明確になったものもあります。キリンとサントリーの合併解消やトヨタ事件など、まさか!と思うような結果まではさすがに予想されていません。もちろんそんな事は批判に値するものではないのですが。

このCDには「主要30業種の展望」という解説があります。自動車・食品・銀行などに対し、2010年の予想が大胆になされ、その中に「介護」と「医療・医薬」という項目があります。ところがこの内容たるや、現場の私が聴くにまったく的外れな内容で、ちょっとビックリだったのです。

日頃から経済を生業としている方達と、自然科学と人の心の間を右往左往している私との間には、かなりの見解の差があるなと思っていました。そしてこれを聴くとますます「この差は大きいなー」と思うのです。


まずは「介護」。介護は今後ひじょうに大きな成長分野と捉えられています。ますます重症化する超高齢社会に、人材や資金が投入されるのはだれが見ても明らかです。そして誰もが将来の自分自身の問題になる事を知っています。

しかし、今の超低水準の賃金や財源の話しがされていません。医療保険と同じく、国が先導するシステムに黒字化はありえません。超低水準から成長したとしても、とても普通のサラリーマン程度の給与水準にはなりえません。そのため優秀な人材確保は不可能となっています。

私は10年ほど前、介護ヘルパーの養成をする仕事に携わっていました。そこに来る方とは、いわゆる失職者が多く、国が補助金を出してくれるからとりあえずヘルパーになろうという、モチベーションが最初から無い方達が多いのが現実です。

もちろんきちんとした志を持った方もおられるのですが、理想と現実のあまりのギャップの激しさに、多くの人が去って行きます。それくらいの低水準からの僅かながらの成長を、私はお世辞にも成長分野とは言えないと思います。

民間の介護分野はそれに比べれば良いでしょうが、その多くはいわゆる富裕層ビジネスで、豊富な退職金や年金を使って海外旅行に連れ出そうとするビジネスモデルとあまり変りません。マーケットは自ずと限られます。

あまりにプアな水準、そして高齢社会や介護とはどのようなものなかをあまり知ろうとしない(自分の事として考えるのは怖い!?)と考えている人が多いという実態が読み取れます。

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続いて「医療・医薬」、これがまったく話しにならない。

短い時間に多くを収載できない事は解ります。で、このCDには一点だけ、医薬品の特許切れ問題に触れています。それによるジェネリック医薬品の増加と、収益構造の悪化に言及しています。

しかしこれが医療・医薬の筆頭にあげられる予測なのでしょうか?当事者はたいへんでしょうが、国民生活を揺るがすような結果にはならないと思います。

私が考える医療の最も大きな変化は「自由診療・保険外診療」という分野の拡大です。人間ドックや美容整形、歯科では矯正やインプラントなどがこれにあたります。水道水ではなくペットボトルの水を買う、あるいは子供を私立小学校に入れるのと同じ考えです。そしてそのシェアは非常に大きい。しかしこれらは統計には現れてこない分野です。

統計に現れないといえば、経済番組を見ていても面白い事が解ります。経済の動向を占う様々な統計や指標が出てくるのですが、アナリストさんはそれらを見て今後の経済を予測します。しかしそれらは古くて非常に限られた分野の事しか解らないのではないでしょうか?

たとえばこの時代にデパートの売上を見て、経済を予測できるのでしょうか?旧来からの流通形態は変化しています。少なくともAmazonや楽天などの売上を加味する事が必要です。

医療はいわゆる「消費」とは異なるもので、患者さんは消費者ではありません。しかし経済学の中では消費と言われてもしかたがないでしょう。だから目先の数字が明快な薬の売上が医療の実態を把握する指標として取り上げられているのだと思います。統計に現れないデーターも読む、そうでなければ甚だしい的外れな論評になるのは当然です。

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実は私は「日経ビジネス」のファンです。するどい切り口は経済に無頓着は私をも引きつけ、「また買いたい!」と思わせるに充分な内容です。

PodCastで以前配信されていた「日経ビジネスオンライン 編集長の終わらない話し〜とれたての話し」もずっと聴いていました。残念ながら今は打ち切りになってしまいましたが、歴代編集長の熱くも冷静な話しに聴き入ってしまったものです。

そして「経済の人達はいったい何を考え、どうやって自分の体を壊し、医療費を食いつぶして行くのだろう」と考えるのが日常となってしまいました。患者さんを診ていると、経済の負の部分が良くわかります。そんな思いで書いたのが、移転を機に書いたこの挨拶文でした。


未来をズバッと言い当てた人はカッコいい!誰もそう思うのでしょう。そしてそれはは楽しく、事業を行う上でもとても大切な事だと思います。

けど世の中あまりにそれに走りすぎて、解りきっている事が疎かになりすぎていると思います。病気になって当り前の生活、このままでは病気になると解っているのに改善できない、世の中全体がこの調子です。

それがどれほど生産性を下げ、日本経済の足を引っ張っているのか、経済学の専門家にこのような計算ができる人はいないのでしょうか。自分も経済の中で生きているのに、医療の現場にいるとまったく世間ズレしているなと想ってしまいます。

PS:「終わらない話し」の井上豊さん、今は「日経ベリタス 大江麻利子のモヤモヤトーク」に応援団長としてたまに出演していますね。相変わらず精力的ですね。