2009年2月15日日曜日

なぜ歯根尖切除の話をしているのかというと...2

2月9日よりつづく〜
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その先生の答えはこうでした。

「私は歯根尖切除の経験が少ないので、インプラントを選択しました」

う〜む、これはどうでしょう?この先生は実は顕微鏡をお持ちですし、手術も確かなようですので、歯根尖切除ができないはずはないのですが。患者さんの事を考えたら、まず歯根尖切除の可能性を考えるべきだと思います。もし自分でできないのであれば、大学病院などに紹介すれば良いのです。診断してもらい、それでだめなら初めてインプラントにするべきです。彼はなぜそれをしなかったのでしょう?

これは私の想像ですが、この先生の頭の中には最初から歯根尖切除の選択肢は無かったと思います。ちょうど発表用に最適なインプラント症例が造れる患者さんがこられたので、喜んで手術をしたように聞こえました。もちろんリスクをおかしてまで根管治療をする気もなかったでしょうし、インプラントの技術はあっても根管治療はあまり得意ではなかったのかもしれません。

当時はちょうど、前歯のインプラントを審美的に行う事が重要と言われてからしばらくたった頃でした。今でこそあたりまえですが、だれもがそのような手術をしたいと思い始めた時期です。

歯科医療界とは不思議な所で、ある程度仕事ができるようになると「何のため・誰のため」に診療をしているのかが解らなくなってくる人が増えてきます。どういう事かと言うと、患者さんのために診療をしているのではなく、発表用の症例を造るために診療をする人が出てくるのです。悪く言えば、学会や研修会でかっこをつけたいのです。

間違えないでいただきたいのですが、症例を造る事は良い事です。それを他の歯科医師と共有する事は、医療技術の進歩にかかせないことです。しかしすべては「患者さんのために」という思いがベースになくてはいけません。私はそれが今の歯科医療界にどれほどあるのかが疑問なのです。

歯根尖切除は保険診療に収載されてはいますが、たしかに成功率が低く、評価されている医療技術とは言えません。成功率をあげようとすると設備投資や人件費が大幅に増え、簡単には実行できません。しかし前述の先生は顕微鏡をお持ちにもかかわらず、選択肢の一つとして考えてもいただけなかったようです。なぜこうもインプラントをしたがるのでしょう?

実はそこには経営的な問題もあるのです。健康保険による基本的な医療技術がまるで評価されず、赤字が避けられない状況の中、インプラントはまるで経営の救世主のごとく歯科界に現れました。その結果、不採算な保険診療を切捨て、いきなりインプラント治療に特化しようとする歯科医院が増えているのです。基本的な歯科技術の向上を考えず、保存できる歯まで抜歯してインプラントにしてしまう同業者が増えているという事です。

同業批判はとても悲しい事なのですが、そろそろ放っておけない時期になったようです。救える歯はもっとある、歯根尖切除をするたびにそう思うのです。

次回は「歯根尖切除 vs インプラント」と題して、どのように使い分けるべきかをお話しようと思います。