2012年2月12日日曜日

「トラブル急増 インプラント  ~自由診療の陰で~」を観て


「インプラントをやっていただかないと経営が成り立たないんですよ!」と語気を荒げて訴える青い手術着の歯科医師。

さらに「インプラントは歯科医師の救世主だ」とまで。本来なら患者さんの救世主であるはずなのに、経営のためにしかたがなくインプラントにせざるをえない、これが日本の歯科医療の実態です。同業者の批判は切ないが、しかししかたがない。ついに来たかと思わされた内容でした。


だいぶコメントが遅れてしまいすみません。度々お伝えしておりました1月18日放送のNHKクローズアップ現代「トラブル急増 インプラント 〜自由診療の陰で〜」について。

すでにいろんな所で感想が聞かれますが、私とFacebookで繋がっている大阪の先生のコメントが代表的なものです。以下はその引用です。

(放送後)当院でもインプラント治療をキャンセルしたり、あるいは不安に思われる患者さんが続出です。特にどこかの歯科医師が言った「インプラントは歯科医院にとっての救世主です。打てば打つほど儲かるんです。」みたいな話が衝撃的だったようで…。NHKの放送内容は、本当に社会に貢献するような“正義”であったと言えるでしょうか。

まったくをもって同感です。ただ不安を煽っただけで、本質的な問題追求も建設的な意見もほとんど聞かれなかった、残念な内容でしたね。


本質とは?それはすでにこちらで書いたように、日本の健康保険制度ではちゃんとしたムシ歯治療や入歯造りができない、予防もできない、だからインプラントにするしかない。そして自由診療で保険診療の赤字を埋めなくては経営がなりたたない。

ところが健康保険の材料だけを変えただけで、技術は何ら変わらないという自由診療が歯科の信用を落としている。それがインプラントだった場合、トラブルが起きる可能性が高いという事です。プラス、勘違いコンサルがそれを煽っている‥‥

番組では「歯科医院の数が多く、過当競争になっている」とありましたが、それは違います。病人がこれほど多いにも係わらずそう言うのは「歯科治療とは、この程度で十分」という誤った知識を持っているからにすぎません。だから多くの高齢者は困っているのです。

番組でコメンテーターとして出演された先生は日本でインプラントを行う歯科医師であれば誰もが知っている重鎮ですが、保険医ではないので医療制度の惨状を身を以て語れる立場にありません。言葉を選んで慎重に発言されていましたが、セカンドオピニオン以外に視聴者に役立つお話をいただけなかったのはある意味しかたがない事です。

しかし最後の「患者さんがそれを見極めるだけの、歯科に関しての賢い状態になっていただきたい、そう思います。」という言葉は同感です。

***

あの青い手術着を着た歯科医師は大きな間違いをしています。患者さんが求めているのは噛める歯であり、インプラントではないという事が解っていない。そして歯の保存の価値を認めない健康保険の枠組みこそ変えて行かなくてはならない本質です。

インプラント事故に対し「教育がなかったから」とか「ガイドラインがなぜないのか」と言いたい気持ちは解ります。しかし人の体は宇宙規模です。歯科口腔外科という狭い範囲であっても、学校教育程度ですべてを網羅する事は不可能です。

医学は卒業後であっても一生をかけて研修で腕を磨くしかなく、その中で自己の裁量権で治療を行う事しかできません。そい言う意味でモラルの低下と言われればその通りです。

しかし歯科医療の価値も質もここまで落とした行政に番組はいっさい論点を合わせようとしないのはなぜでしょう?

超高齢社会を乗り切る鍵は歯科医療が奏功するか否かにかかっています。医療の充実は雇用を生み、生産者年齢の上限を引き上げ、生きる喜びを社会にもたらします。結果として税収が上がる好循環を誰もが待っているのではないでしょうか。

今後この特集に良く似た番組を民放が造る可能性が高いと思いますが、ぜひ以上の話を反映させた番組造りをお願いしたいところです。


それにしても、まだインプラントを「打つ」と言う歯科医師がいたのですね。驚きです。また後ろに写っているレントゲンには、どう見ても必要以上のインプラントが埋入されています。そこそこの腕のある方なのでしょうが、例の勘違いコンサルに翻弄されているのではないかと思ってしまいます。

それからNHKさん、「放送した内容をすべてテキストでご覧いただけます」とありますが、冒頭のインプラントにして良かったと言った方の場面がカットされています。これでは不安を煽るだけと言われても仕方がありません〜!

【関連サイト】
歯科インプラント治療に係わる問題  -身体的トラブルを中心に-