2012年1月8日日曜日

「国民生活センター インプラントの報道発表資料」を読んで・2

こちらからの続きです。

ただし「差がある」のは何もインプラントに限った話ではありません。むし歯だって、歯周病だって、入れ歯だってです。インプラントだけに問題があるような記載は問題です。

「歯科インプラント治療でいったん危害(*1)を受けた場合、症状や治療が長期間にわたるおそれがある。」というのも、インプラントに限った話ではありません。特に根管治療による危害(?)は大きな問題を残します。ただインプラントによる危害(!?)は非常に解りやすく、自由診療であるために金銭的な問題を残しやすいのです。

トラブルの根源は健康保健制度の著しい不備にあります。歯科治療を非常に簡単なものと考えている。そしてその延長で自由診療を行っている先生がおられると問題になりやすい、インプラントはその筆頭です。

報道にあるように、経営のために自分の実力以上の困難なインプラント治療に手を出すのはなぜでしょう?それは健康保険でまじめに治療をする先生ほど向上心があり、その裏返しとして赤字になる仕組みがあるからです。

もし健康保健で国際的に認められいてる標準的な治療ができ、その労力や投資に見合った収益があれば、このような話にはならないわけです。報告書はそのような実態を見ず、インプラントトラブルの表面をなぞっただけです。


先の「説明不足」というのも、それを健康保健と同程度と思われている方が多いと思います。しかし保健と自由診療の違いを明確にしていないとそのようになるのではないでしょうか。

またここ数年流行の「勘違い歯科コンサル」が自由診療を安易に煽っている事も問題の背景にあると思います。


質より数が重要な保険診療と同じスタンスでインプラントなどの自由診療に取り組んでいる先生が少なからずおられ、問題を起しやすい状況になっているという事です。

インプラントだけでなく、レーザーや顕微鏡などの先進医療は今も大学教育がほとんどありません。すべて歯科医師の裁量権に任され、卒後研修で技術を取得して行きます。

インプラントはメーカー主催の1〜2日の研修会(*2)だけで歯科医院に普及して行った歴史があります。メーカは売上を優先しますので良い事しか言いません。だからこんな研修が要るのです。

保健で良い治療をして大赤字が出たところを、インプラントなどの自由診療費で補填する、これが通常の歯科医院の経営形態です。保健で黒字がでるというのは考えられません。

保健でなんでもできると思わせ低質医療を押し付ける、まじめに治療をしている先生ほど経営的に追い込まれる、そんな制度をなんとかしなくてはならないのではないでしょうか。

本当はインプラントにせず、保存を精一杯やりたいと願う先生の声を聞くべきで、混合診療や差額診療を認めないからこのようになるのです。

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P14には『歯科医師及び歯科医療機関において一定水準以上の治療を受けられるよう、歯科インプラント治療についての基準やガイドラインを設けるよう要望する。』とあります。それはまず第一段階として意味があるかもしれませんが、あまりに視点を欠いている。

正しくは『歯科医師及び行政機関において、歯科インプラント治療を含む全ての歯科治療において国際水準と同程度の治療と予防を受けられるよう基準やガイドラインを設けるよう要望する。』であるべきです。でなければ歯の欠損は減らないのですから。

そしてP17の《要望先》には当然厚生労働省がなくてはなりません。でなければ効果はまったく期待できません。

国民生活センターもNHKも日本の歯科医療の本質的問題をきちんと訴えていただきたい。このような中途半端なプレスリリースは混乱を引き起こすだけです。インプラント偏重にならざるを得ない日本の歪んだ歯科事情をしっかり捉えてほしいものです。

なお、これは隠さなくてもいいと思うので書きますが、NHKではこの話題を30分番組にして1月中に放送する予定との事です(*3)。以上の事を踏まえ、本質を見据えた番組を構成していただくことを願うものです。

【関連サイト】
インプラント治療前に確認したい10項目

立読みコーナーに追加:あなたのインプラントはだいじょうぶですか?
インプラントのすべてが解る本の「立ち読み」を追加

「インプラントで困ったら」が困った(5)
「インプラントで困ったら」が困った(4)
「インプラントで困ったら」が困った(3)
「インプラントで困ったら」が困った(2)
「インプラントで困ったら」が困った

VideoCast vol.15 インプラントはここに気をつけて!1
インプラント手術は誰がする?


インプラントセミナー 1回目
インプラントセミナー 2回目
インプラントセミナー 3回目

口腔インプラント学会・学術シンポジウム
歯科医療の未来
異物=有害か!?


*1:報告書では「危害」という表現について説明がなされていますが、最初から予防線を張っているところは手慣れたものですね。

*2:NHKの「メーカー主催の講習会」って、この写真は講習会ではないですよね。。。そしてこの方は歯科医師ではなくて、大東京………(^^)

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*3:1月18日(水)19:30からのクローズアップ現代で放送されるそうです。(1/14追記)

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