2016年7月26日火曜日

歯周病菌検査 再開 (PERIO ANALYSE)


「歯周病は悪いバイ菌のシワザである」ということは解っているのですが、バイ菌はもちろん目には見えないため、患者さんはもちろん、歯科医師にもイマイチ実感が沸かないものです。

位相差顕微鏡というものがあって、わざわざバイ菌をお見せすることもできるのですが、たいていそれは本当の歯周病原菌ではなく、唾液の中を浮遊している「その他大勢」のバイ菌です。患者さんを驚かせモチベーションを上げてもらうツールにはなりますが、診断や治療の手段にはなりません。

普段の歯磨きや歯科衛生士が行うクリーニング(PMTC)は「バイ菌の数を減らして感染力を弱め、その隙に炎症を改善させましょう」という理屈で行うわけですが、複雑な歯周ポケットの中を隅々までお掃除する事はなかなか困難です。

それに歯磨きや治療の効果が本当に現れているのかは、実は専門家である私たちもよく解らないところがあります。できるのは歯周ポケットを触って「深さ」と「出血」の有無で予想するという、なかなか原始的(?)な方法です。顕微鏡を見ていても基本的には変わりません。

しかしこれは歯周組織(歯肉や骨)が破壊された結果を診ているので、手遅れではないかと言われればその通りです。もっと事前に細菌の活動を知る方法はないのか、という事で「細菌検査」の出番です。


細菌検査には二種類あって、一つは簡易な「酵素活性測定法」、もう一つは主に検査会社に発注する「PCR法」というものです。また細菌検査ではありませんが、細菌に対抗するために体が造った免疫を測る「IgG 抗体価測定」というのもあります。

酵素活性測定法は、数ある歯周病原菌のうち、特定の共通する酵素を出す細菌三種類の、酵素そのものを測ります。安価ですぐに結果がでる一方、菌種の特定や、その他の歯周病原菌の活動量はわかりません。しかしこの酵素が検出されるということは、すでにその三種類のうちのどれかが活動し、歯肉や骨を攻撃している事になります。

IgG 抗体価測定は、細菌が居たという痕跡を測るので、 現在の状況を知るにはちょっと役不足です。

PCR法は細菌そのものを測るので、種類を確実に特定できます。またその比率も出てきます。量も出てきますが、こちらはちょっと信憑性に乏しいので割愛。

歯周病に関与するバイ菌は、主に以下のものが挙げられています。
  1. Aa菌 Aggregatibacter actinomycetemcomitnas
  2. Pg菌 Porphyromonas gingivalis
  3. Tf菌 Tannerella forsythia
  4. Td菌 Tleponema denticola
  5. Pi菌  PrevotelIa intermedia
  6. Pm菌  Parvimonas micra
  7. Fn菌 Fugobacterium nucleatum 
  8. Cr菌 Campylobacter rectus 
  9. Ec菌 Eikenella corrodens 
  10. Ca菌 Candida aIbicans

なんか難しい名前ですね、細菌の名前ってのはみんなこうなんです。だからイニシャルで呼ぶことが多いのです。

さて上記のうち1〜4が検出されると、ちょっと困ったなーという感じになります。特に2〜4はレッドコンプレックスと呼ばれる極悪三兄弟として知られ、ちょいとタチが悪いです。

しかしいくら極悪でも、量そのものを減らし、比率が下がれば病原性も下がります。量を減らすためには歯磨きやクリーニングを、比率を変えるにはそれプラスで免疫力や体質が大きく関与しているのではないかと思われます。つまり栄養医学療法が奏功すれば二回目の検査結果が良くなる可能性があるということです。

歯周ポケットやインプラント周囲では常に多くの活性酸素が発生し、タンパク質が分解され、鉄などのミネラルも消費されて行きます。負の連鎖のどこかをストップさせれば、炎症は軽快する可能性があります。例えばビタミンCやEによる抗酸化は、手軽にできる改善策です。

PCR法による歯周病原菌検査は以前よりあるにはあったのですが、高額だっとということと、応用価値が不明ということでまったく普及しませんでした。歯周病に超詳しい先生でも検査を取り入れているところはほとんどなく、基礎研究と臨床がまったくリンクしていないという状況です。細菌の種類や量が解ったところで、やるべき事は何も変わらなというの主な理由ですが、これは外側からのアプローチしか考えない現代歯科医療の悪い面だと思います。

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この度導入となったPCR法による検査はフランスのClinident社の「ペリオアナリーズ」というキットで、年初より日本からの検査も受けつけるようになりました。価格も従来品と比べてだいぶ安くなったので、これを機にPCR法による細菌検査を再開いたしました。方法は簡単で、紙製のスティック(ペーパーポイントと言います)を歯周ポケットに挿入して内容物を採ってくるだけです。

ペリオアナリーズには一般的に歯周病原菌とは言われない Ca菌 Candida aIbicans つまりカンジダが検出できるコースがあります。
    カンジダ検査は高齢者や極端に免疫が落ちている方など特殊な場合に行われているようですが、私たちは全員に必要なことだと考えています。

    有機酸検査というものを行うと、アラビノースや酒石酸という項目が上がっている方がそうとうおられます。これは腸管粘膜でカンジダが増殖し、腸のバリヤ機能が破壊されている(リーキーガットと言います)可能性が非常に高いことを表します。そうなると本来なら体内に入ってはならない物質がどんどん入ってきて、例えば遅延型食物アレルギー反応(IgG)をおこしたり、随所でタンパク合成阻害をおこします。これを歯周病やインプラント周囲炎と無関係と言うことはできないと考えています。

    それにカンジダは口から侵入しますので、歯周ポケットからカンジダが検出されれば、腸管粘膜にまで進んでいる可能性は高くなります。

    同じ理由で胃癌の原因ともされているヘリコバクターピロリも調べる価値があり、これはキットの項目にはありませんが、頼めば同時に測ってくれるかもしれません。

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    細菌検査は先の位相差顕微鏡と同様に、患者さんを良い意味で脅かし、モチベーションを上げてもらう手段としてのみ生き延びてきました。

    しかしここに来てようやく、栄養医学療法阻害因子検査・遺伝子検査と照らし合わせることで、治療効果の判定に用いられる可能性がでてきました。

    歯科は検査もそこそこにいきなり手を出すことが多いのですが、医科では考えられない事です。行き当たりバッタリの出たとこ勝負の治療ではなく、もっと先手を打つべきです。

    ただし先手を打つとは、まだ自覚症状が出ていない患者さんに対し、治療をお勧めするということです。これを信用してもらえるかどうかは患者さんしだいなのですが、少なくとも隠れ栄養失調であったり、阻害因子が溢れているような状態で、歯周病やインプラント周囲炎の治療効果が長期間続くとは考えられません。

    一般的に歯周病は「歯磨きを徹底すれば予防ができるものであり、再発したり進行するのはその努力が足りないから」とされています。本当にそうなのでしょうか?細菌や細胞が相手の治療なのですから、外側からの治療だけではなく、内側からの治療にもひじょうに大きな期待があります。その効果判定に細菌検査はとても有効だと思います。

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    さてこのペリオアナリーズによる検査代は、測定菌種数により一回 ¥18,000〜¥23,000くらいとなるのですが、血液検査など他の検査とセットで行う事で、料金を下げる事を考えています。その方が情報量が多く正しい判断ができてお得なだけでなく、私たちも時間の節約になるからです。

    またたいせつなのは、必ず二回目の検査をして治療効果を評価することです。例えばPMTCを行った結果、一時的に細菌数は減りますが、それがどの程度持続するのかは二回目の検査をしなくては判りません。一回だけではオモシロイで終わってしまうのです。ですから細菌検査は最初から二回分の検査代を含めたセット料金にする事を考えています。

    なお細菌検査などを保健医療機関で行う場合は、混合診療になる可能性があるため法的な注意が必要です。

    まだ件数が少なくてご報告できることは少ないのですが、他の検査と合わせて効果的な方法を模索して行きます。歯周病を根本から治したい方・インプラン周囲炎を解決したい方に特にお勧めいたします。