2016年7月27日水曜日

「健康資本」という考え方


日本やアメリカをはじめ、多くの国家は「資本主義」です。この場合「資本」とはお金のことを指すのだと思いますので、正しくは「金融資本主義」ではないかと思います。

しかし医療人としてたいへん疑問なのは、「資本」とは金融だけなのかということです。私はマルクスの資本論を読んだことはないので間違っていたらご指摘いただきたいのですが、人類が持つ資本は「金融資本」以外にも、まだあるはずです。そしてその中に「健康資本」があります。

資本ですから増えたり減ったりします。貯金をし利息がついたり、投資に失敗して損をする事もあるでしょう。上手に使って得して暮らして行きたいものですが、多くの人が気づいていません。


人類が持つ資本とは全部で5つ、すなわち「環境・時間・文化・金融・健康」です。そして文化と金融は、人類のみが所有する資本です。私はこれらのバランスが重要だと思うのですが、金融だけが突出しているのが現代社会です。


1・環境資本

空気や水、そしてこの大地は、生命全体の根源的資本です。命はここで生まれ進化してまいりました。天地は神により創造されたとの思想があるように、古来からもっとも尊重されていた資本ではないかと考えられます。

また太陽の恵みをはじめ、空から降り注ぐ多くの電磁波の発生源として、宇宙全体も大切な資本です。

石油や鉱物・美しくも厳しい自然環境という資本は、近年急速に蝕まれていることはご存知のとおりで、金融資本と文化資本の増大により多大な損害を受けています。


2・時間資本

時間は若い人に多く、高齢者に少ない、わかりやすいですね。

ところが世の中には時間を使うことが上手な人がいて、質の良い時間資本を持っています。私を含めほとんどの方は、あまり上手ではないと思います。

しかしこれは下記の文化資本により英知を結集すれば、だれでもある程度は増やせる可能性があります。

若くして不幸にも病気で余命宣告されたかたは、残念ですが時間資本は少なくなってしまいます。ところがそこからすばらしい集中力を発揮し、時間を有効に使うことができるようになる方もおられます。

すなわち時間資本は、気の持ち方次第で質を高めることができることが特徴です。


3・文化資本

知的財産と言ってもよいかもしれません。時間資本の流れで蓄積されてきた英知で、金融資本と共に人類しか持っていない資本です。

文化には、家族愛・愛社精神・愛国心などもあります。またお祭りや食文化も、大切な資本です。その中には正しいものもあれば誤ったものもあり、単なる強弱とは異なったベクトルを持っていることが特徴です。

社会において文化資本は、時間資本を用いて無限に成長することができます。


4・金融資本

いわゆる資本といえば金融のことで、これは文化資本から派生したものです。

働いた価値を通貨に還元し流通しあう人類特有の資本で、そこには勝ち負けが存在します。

一部の人は金融資本さえあれば、他の4資本は少なくなっても良いと考えており、そのため不正も発生します。

今日の経済発展とは、個人の健康と生活環境の犠牲に上に成り立っています。すなわち健康資本と環境資本を急速に消費することで、金融資本は効率的に拡大してきたと言っても過言ではありません。


5・健康資本

健康は、すべての人の願いです。生まれた時からすでに平等ではありませんが、それは文化資本の使い方により後天的に増減します。

たとえば健康に留意した生き方をし、危険から身を守る努力をし続けてきた方の健康資本は増大します。すなわち健康資本に「投資」し複利を得た状態です。しかしあまりに健康資本を重視すると、面白くない文化資本の低下した生活になります。

また医学という文化資本は、伝染病などの外来疾患や外傷の治療に多大な影響を与え、健康資本の低下を食い止めます。

反面、経済という金融資本の拡大により生活習慣病という新たな疾患が創り出され、寿命(時間資本)は延びたものの、健康資本は低下しました。

超高齢社会とは長寿で時間資本を得ながらも健康資本が維持できず、福祉医療費の増大により金融資本を脅かしている社会とも言えます。

しかし最近では若くて時間資本を多く持っていながら、健康資本が少ない方が増えています。

人は時に、健康資本を消費してまでも何かを守らなくてはならない事態に遭遇します。また環境資本の低下は健康資本の低下に繋がります。

私個人は、日々人々の健康資本の奪還や増大を中心に考えて生きています。

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資本とは、投資して帰ってくるものに期待し、発展し続けるものです。見返りを求めるというのはあまり良い言葉ではありませんが、何かしら良いことに期待するから人の心は動くのだと思います。

Wikipedia によると資本主義とは「経済の仕組みの一種で、資本の運動が社会のあらゆる基本原理となり…」とあり、当然のことながら健康や環境に触れていません。しかし上記のように、5つの資本は互いに連動しています。

東洋医学では陰陽五行と言って、すべての事象を「木・火・土・金・水」の5つに分け、それぞれに「相生・相剋」というプラスマイナスの関係があるとしています。

5つの資本をこれに当てはめるのはちょっと無理があるようですが、あまりに金融資本だけ突出し、一方で健康資本が忘れ去られ、健康預金がマイナスになりそうな頃に慌てて金融資本をつぎ込むという、とてもアンバランスな状況をもっと疑問に思っていただきたいのです。

そして金融以外にもきちんとした資本があり、それに支えられてい生きている事に感謝しなくてはならないことも忘れてはなりません。

私たちは治療と予防を同時に進める独自のスタイルで診療をしていますが、健康資本という考え方を持ち、そこに積極的に投資することができる自律した人を造ることも大切な仕事だと思っています。健康資本に少しだけ目を向けてくれるだけで、世の中は大きく変わると思っているのですが、いかがでしょう。