2012年6月3日日曜日

歯科用CTが保険で使えるようになりはしたが…

KaVo 3D eXam-i with GIDORA

4月1日より、歯科用CTによる撮影〜診断が健康保険に正式に導入されました。それ以前はかなりあやふやで皆請求に苦労していましたが、やっとです。

しかししかし、その撮影にはやはり多くの条件が付けられ、結局現場の声は反映されませんでした。CTにより露呈する日本の歯科治療の惨状は明らか、特に根管治療の不備は隠しようがないというのにです。

今回の改訂では「CTは通常の撮影方法で診断がつかない場合に撮影できる」との旨記載されています。「通常の」とは「パノラマ」と呼ばれる全体写真と、「デンタル」とよばれる小さな写真の事ですが、この2つを撮ってからでないとCTは撮影してはいけないようです。

まぁそれくらいは良いのですが、問題は撮影が事実上「親知らずの抜歯で神経に近接しているもの」や「腫瘍」などに限られ、「根管治療(歯内治療)」や「歯周病治療」を目的とした撮影はできない事です。

それらがひじょうに重症で炎症が拡大してしまってからやっと撮影ができるという事なのですが、それではぜんぜん手遅れで、もっと早い段階からの撮影〜診断が望まれます。

すでに何度かお伝えしてきたように、根管治療は不備がたいへん出やすい治療で、再治療や抜歯に至る大きな分野です。


このデンタル写真は急性の上顎洞炎を発症してきた重篤なものです。これだけでは炎症があることにはなかなか気がつきません。第一大臼歯と第二大臼歯の間が僅かに黒く異常がありそうなのは解りますが、どちらが原因かはかっきりしません。唯一の手がかりは白い上顎洞の線が上に盛り上がっている事です。


CTを撮影するとその異常は明らかになります。原因は第二大臼歯の近心頬側根の根管治療の不備にありそうです。しかも副根管と呼ばれる部分が未処置で、そこに原因がありそうです。



近心頬側根を軸に360度廻してみたビデオがこれです。上顎洞をドーム状に盛り上げながら徐々に炎症を拡大させ、ついに激しい痛みと高熱を伴ってきたわけです。

このような治療の診断にCTが使われるようになった事は朗報です。しかし事が大きくなってからやっと使えるようでは困るのです。そうならないような制度にしてもらえないのはなぜでしょう?

これはもう国として財政上、根管治療に経費を使われては困るという事の現れなのではないでしょうか?

国は全国の旧国立大学歯学部から根管治療に関わる講座を積極的に廃止し他の講座と統合してきました。そして今では残るのは東京医科歯科大学ただ一校、私立もそれに追従して行くところすらあります。

こんな事では「良い治療をされては困る」というのが国が考える歯科健康保険で有ろうとすら思えるのです。

もちろん根管治療を適切に行うにはCT以前にラバーダムや顕微鏡といった設備、そして治療に最低限必要な時間の確保が不可欠です。それすら実現しない国民皆保険制度に依存していては、治る人も治らないのが現実です。

最近多くの先生が根管治療を自由診療で行っていますが、実はそんな理由もあるからなのです。せっかくの高性能機器も、日本の保険医療機関では宝の持ち腐れになってしまうのをとても悔しく恥ずかしく思うのです。

さて6月1日より吉田歯科診療室は完全自由診療化に移行いたしました。これにより保険医療機関ではコストや制度(混合診療)の問題で実現できない様々な提案ができるようになりました。保険医療機関さんといっしょに、隙間を埋めて行くような治療もやって行こうと思います。