「AST と ALT」からのつづきです。
BUN(またはUN=尿素窒素)という項目も、よくある検査の一つです。一般的には腎臓のフィルター機能がうまく働いているかを診る指標で、フィルターが詰まっているような状況では血液中のBUNが上昇します。
だいたい22以上になると、ウーーーームという事になるのですが、こちらも前項のAST ALTと同様に「それ自体が何なのか」という使われ方がされていません。ということで、栄養医学療法はそこに着目します。
総蛋白のところで書いたように、私たちの体は新陳代謝により、常に新旧が入れ替わっています。古いタンパク質が分解され、同時に新しいものが造られ、置き換わります。
その過程で最終的に「BUN=尿素窒素」というものが造られ、腎臓から排出されます。
腎臓の機能が正常ならば、BUNはフィルターで分別されてオシッコになって出て行きます。フィルターがおかしければ(腎臓の機能が低下していれば)血液中にいつまでもBUNが残っており、数値が上がったままになります。
すると腎臓の機能が正常ならば、BUNの数値はタンパク質をどれくらい動かしたか、つまり代謝量を反映することになります。数値が低ければ代謝量が少ない=活性が低い=不定愁訴が出やすい、という事になります。私たちはその原因がどこにあるのかを探します。
大きな病気がなければ、一般的にBUNが低い原因には以下のことが考えられます。
- 単純にタンパク質を食べる量が少ない
- 食べるタンパク質の種類が悪い(必須アミノ酸の欠如)
- 胃炎腸炎で吸収率が低下している
- 高齢で吸収率や利用率が低下している
- ビタミンB群不足
筆頭はそもそもの食べる量の不足ですが、では何でもいいからタンパク質を食べれば良いかというとそうではなく、必須アミノ酸が全て含まれている事が重要です。これについてはまた別に書く事にしましょう。
それから、せっかく良いタンパク質を食べているのに、胃炎や腸炎で消化吸収が悪かったり、高齢者で利用率が落ちているとBUNは上がりません。ですから高齢になるほどタンパク質は食べてくださいという事になります。
当然よく噛まなくては消化吸収は落ちますし、歯が悪い人は食べる量が少なかったりで、そのまま利用率の低下となります。
それから胃にピロリ菌がいると胃炎で消化が悪くなり、タンパク質が吸収されにくくなります。
そしてもちろん、前項で書いたビタミンB群の不足です。代謝が落ちるので、当然BUNも下がります。
BUNはだいたい18あると安心ですが、残念ながら低い方しか診たことがありません。私が今まで診た一番低い方は7で、さすがにいろいろな不定愁訴をお持ちで、結局通院が途絶えてしまいました。
7ということは腎機能を診るための基準値も下回っているのですが、内科では何も言われなかったそうで、さらに婦人科で不妊治療も受けておられました。栄養療法に詳しい婦人科の先生に言わせれば、無茶な話です。当然歯科治療も厳しいはずです。
では逆に高い方は、以下のような事が考えられます。
- 本当に腎臓が悪い
- 低栄養や過度なストレスで、体が筋肉などを分解してまでも必要なタンパク質を確保している
- 胃腸から微少な出血が持続している
- 甲状腺機能亢進症
- 脱水
- スポーツ選手などで意図的に高タンパク・高ビタミンにしている
たとえば、一見普通そうな方が初診で来て、BUNが22を越えていたら腎臓の機能を疑った方が良いでしょう。
タンパク質を食べる量が少なすぎると、体は筋肉を分解してまでしてタンパク量を確保しますので、BUNが上がってきます。ですから食事内容を知る必要があるのです。
また意外なのは、胃腸炎で出血が持続している方。出血した血液の良質なタンパク成分を腸で再吸収していますので、タンパク質を食べている以上の値が出てきます。
おもしろいのが6番目で、筋肉増量など意図的に栄養を入れている人は21くらいにまで上がります。私も意図的にビタミンB群を摂っておりますので、21まで上がった事があります。もちろん何の問題もございません。
タンパク質は体を作る原材料で、食いだめができないので、毎日きちんと摂る必要があります。だいたい体重1kgあたり1~1.5gは必要です。
誤ったダイエットや糖質制限でタンパク質量が不足している方はBUNが落ちてきますが、たとえばBUN が9の人は、体重1kgあたり0.5gのタンパク利用量なのだそうです。必要量は1.0~1.5gですから、これでは1/2~1/3という低栄養です。
牛肉の20%がタンパク質だと仮定すると、体重50kgの人は1日に250~375gの牛肉をたべないと十分な代謝量に達しない事になります。
歯科口腔外科においてタンパク質の代謝は、傷の治り・免疫・神経伝達などに直接影響します。BUNは総蛋白・AST ALT などと合わせ、隠れ栄養失調の状況を早めに掴む事に有効です。
特に歯周病治療やインプラントをご使用の方には、その長期維持の指標として、必ず把握しておきたい項目です。
もちろんBUNも上がる要因と下がる要因が同時にくるとマスクされますので、他の検査値と合わせて注意して読んでいく必要があります。
次回は意外な盲点である「鉄」について書いてみます。
追記:栄養療法に関するさらい詳しい情報は姉妹サイトDentalNutrition.jpに記載されています。