日本臨床口腔外科医会・10
またまたえらく遅くなってしまいました、今更ですが4月20日の臨床口腔外科医会の続きです。
前回の記事はコチラです。
これは顕微鏡を使う・使わない以前の話なのですが、どうも私が考えている事と世の中で思われている事の乖離が激しいので、顕微鏡を使う使わない以前のこととしてお話させていただきました。
- まず、「良い材料や最新の機械を使えば良い治療ができる」…これは大きな間違いです
- ですから、「顕微鏡があれば良い治療ができる」…は大きな間違いです
- つまり、「顕微鏡がある歯科医院は良い治療をしている」…も大間違い
顕微鏡が治療をしてくれるわけではありません。するのは歯科医師です。その人がどのような考えで治療を進めているのか、顕微鏡をどのように活用しているのかが見抜けなくてはなりません。
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歯科医療はとても多くの機材を使います。モノは確かに重要で、良いものを使う・使わないが結果を左右する事はあります。しかしそれだけではありません。
昔から良い治療を勧める時に言われてきた口説き文句(?)に「金を使うから良い治療で長持ちする」とか「白いセラミックスだから高い」とか、要するに材料が違うから良い治療で、それが自由診療であると言うものがありました。
しかし現実は、最終的に出来上がるモノ(材料)を変えただけで、技術や中間材料、そして造るのにかける時間が変わっていないために精度が悪く(適合しない)、結局すぐに脱落したり破損するような治療が頻発しているわけです。
そのために「歯なんかにお金をかけても変わらない」という経験をした方が少なからずおられ、歯科医療の信頼を落とす事例があるわけです。
詳しくは長くなってしまうので
こちらのパンフレットをご参照いただきたいのですが、とにかく歯科医療においてモノの善し悪しは2番目か3番目に重要な事になります。…というか「悪い材料」なんて今はほとんど無いのですが。
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歯科医療において「適合」の良し悪しは「どれくらい持つか」を決定します。ですから、
- 適合の良い保険材料での治療
- 適合の悪い自費材料での治療
では、どちらが長持ちする治療なのかと言えば、前者になります。
時間をかけて丁寧に造れば、たとえ健康保険の材料でもかなり長持ちする治療が可能です。しかし適合の良し悪しは患者さんには解りませんし、やっている当の歯科医師でも把握することができない部位もあります。ですから一つ一つのステップを確実にこなしてゆく慎重さが必要になる、結果時間がかかるわけです。
良い治療というのは患者さんにはなかなか解りにくいものだと思います。だから一番解りやすい見える部分に、すなわちモノに目を向かせる人が多いのでしょう。
ところが困った事に、患者さんと同じような勘違いをしている「モノしか見ない」歯科医師も多いわけです。ですから私は…
モノからコトへの転換
見える価値の理解は容易
見えない価値を感じる理解力の創造
という話をしました。見えない部分、背景を読み解く力を養ってください、最近良く聴く「リテラシー」というやつです。
多くの歯科医療は最終的にモノとして提供されることになりますが、それを造るのにどれだけの労力が必要だったのか、またこれからどのような価値を生み出して行くかを考える力が必要です。残念ながら、このような思考は日本人が苦手としている事のように思います。
学校ではそんな教育はしません。社会全体が子供に与えて行くものだと思います。大人は、、、ちょっと遅すぎたかもしれません。
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日本人は特にモノに弱い人種だとききます。私も同感です。戦後の物資不足の中を生きぬいてきた世代の方々は、モノのありがたさが染み付いています。「モノが人々を幸せにする」「モノ造りの国ニッポン」というのは、そういう苦しい時代が根底にあったからでしょう。
時代は変わり、世にモノは溢れています。一部に粗悪なモノはありますが、大部分は古くなっても直せば使えるし、生きる死ぬの問題が出る程の事はそうそうありません。
しかし医療は違います。モノが悪ければどうなるか、そしてその原因はコトを評価する気持ちの欠如があるわけです。
そしてこの感覚がないまま顕微鏡を導入すると、顕微鏡はただのオブジェとなってしまうのです。