ボロは着てても心は錦
いや、別にお金がないわけじゃないんです。モノが手に入らないんです。
何の事かと言うと、マスクやガウンのこと。
マスク・ガウン・手袋・キャップ・メガネ、これらを総称してPPE(パーソナル・プロテクティブ・エクィップメント)と言いますが、このどれもが品不足か欠品。あっても価格が高騰しています。
もちろんそれは新型コロナウィルスのせいで、需要が急激に高まったから。特にまともなマスクや滅菌ガウンは今だに入手困難です。
医療用具はディスポーザブルと言って、感染防御のため使い捨て製品がとても多く、マスクやガウンはその典型です。その他、注射器や針・簡単な器材もディスポーザブルです。
このディスポーザブル製品のうち、滅菌をかけて再利用できるのが、不織紙製であるマスクとガウン。
滅菌とは消毒とは異なり、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌機)という機械に入れて、121度とか135度で数十分かけて行います。これで細菌・ウィルスはもちろん、カビなどの芽胞まで死滅します。アルコールを吹きかけるわけではありません。
紙製品をオートクレーブにかけたことはなかったのですが、コロナ禍でやむ終えずやってみたところ、十数回の滅菌には耐えられることが分かりました。
しかし見た目は悪く、手術用ガウンはご覧の通りシワクチャです。けど実用上まったく問題になりません。おそらく通気性は悪くなっているのでしょうが。
心配していたマスクの通気性ですが、こちらもまったく気になりませんでした。ただしだんだんケバ立ってきて、くすぐったいです。
その昔、マスクもガウンも布製でした。しかし洗濯〜滅菌の煩雑さから、ほとんどがディスポーザブル製品になってしまいました。布製はどこを探しても廃販です。
1日の患者数がそれほど多くはないウチのようなところでは、再滅菌をかける余裕がありますが、感染症指定病院などでは絶対に不可能。ですからマスクやガウンの調達は死活問題で、新品はそちらに優先的に回って欲しいと思います。
ですからウチではしばらくマスクとガウンは頑張って再滅菌をかけていったものを使います。見た目はボロボロですけどね。
不織紙の再滅菌は、どんなオートクレーブにでもできるわけではありません。クラスBとか、それに準じた機械でないとできません。
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クラスBのオートクレーブ |
クラスBとは、滅菌前に一旦真空状態にしてから蒸気を注入するタイプのこと。紙や布などは空気を含むために、通常のオートクレーブでは十分蒸気が行き渡りません。そのため未滅菌部分が発生する可能性が高いのです。
また、蒸気で滅菌するため、中はビショビショになってしまいます。そのためオートクレーブには滅菌後に乾燥させる行程があります。ところがこの時の温度が高温になりすぎると、紙や布は燃えてしまいます。その温度コントロールも重要です。
以上のようなことから、オートクレーブといってもいろいろなタイプがあり、価格も維持費も違います。
ウチではたまたまクラスBの機械を使っていたので、マスクやガウン不足も対処できていますが、無かったらどうなっていたでしょう。
マスクくらいなら今でも手に入ると言われそうですが、私が使っているマスクはメガネが曇らない特殊なフラップが付いた製品でアメリカ製。これは今だに日本に一箱も入ってきてないそうです。また時にはN95マスクをする事あります。
手袋の高騰もかなりのもので、これは破けるので再利用はできません。まったく困ったものです。
製造や流通の方々にはどうかご尽力いただき、全医療機関に円滑にPPEが行き渡るよう、切にお願いするものです。
私どもは「ボロは着てても心は錦」で、このコロナ禍を乗り切ろうとしています。私のガウンがシワクチャなのを見た方は、お察しいただければ幸いです。
なおこの「ボロは着てても心は錦」は、外国には相当する言葉ないのだそうです。何とも日本的ですネ