今回一番驚いた話と言えば、ガイデッドサージェリー(注)の問題点が多数指摘された事です。ヨーロッパで発表されたその成功率の低さはちょっと「エっ!?」て感じです。70%台というのはいくらなんでも厳しすぎる判断とは思います。しかしそこまで言わなくても、うまく行かない理由が整理されてきたのは良い事です。
インプラントはそれを入れたい位置や深さを決定するために、手術の前には必ずマウスピースのようなガイドを作成します。通常は口の中を型取りして石膏模型上で造るのですが、さらに正確に造ろうとすると、CTデーターを元にコンピューターで設計されます。
こうやって造られたガイドは理屈で言えば極めて正確で、設計された位置にピタリとインプラントが入るはずです。加工料はまだまだ高いのですが、狭い所にフリーハンドでインプラントを入れるのが危険な場合や、フラップレスと言って骨を見ないで歯肉の上から直接インプラントを入れる事ができ、痛くないし簡単だというふうに捉えられています。
上の写真は私が行ったガイデッドサージェリーの一例です。設計通りの位置にインプラントが入っています。ところがいつもこうとは限らないという報告が、例えば…
- ガイドが適合しない、つまり使えない
- ガイドを完全に信用しきっていたのにずれていた
- ガイドの穴とドリルはピッタリではないので、やはり少しはずれる
- 本数が多いと深さを間違えやすい
- 水が届きにくくオーバーヒートしやすい
- フラップレスではインプランが歯肉を骨に巻き込む事があり成功率が落ちる
- ガイドの穴とドリルに摩擦があり、骨の硬さの判断が難しい
- 手術中にガイドが壊れる事がある
最後の「壊れる」というのはちょっと信じられないのですが、某大学でも3件あったとの事。これは「硬さの判断が難しい」というのと関連があるというのです。
例えば下顎の大臼歯(奥歯)では舌側(内側)の骨が硬いのですが、それがどの程度かの判断はガイデッドサージェリーでは難しい。それを無理に進めると、ドリルは柔らかい方に向いて斜めに入って行こうとします。そうするとガイドにネジレが生じて壊れる、そんな考察がされていました。
また設計とは違って骨からはみ出した位置に入ってしまったインプラントや、浅かったり深かったりと、ガイドの売り物である正確さがまったく損なわれている症例が。どれも骨を見ていれば有り得ない話。これが初心者ではなくそこそこの腕をお持ちの先生までがそのような経験をしている。何が間違っているのでしょうか?
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結局ガイドをあまりに信用しすぎて、基本が損なわれているという意見で一致します。ガイドはあくまで誤差を見込んで安全域を確保したうえで使わなくてはなりません。
特にフラップレスでは骨の幅に余裕があるケースにのみ使うべきで、狭く細い部分は最初からドリルがずれて入る可能性があります。だからきちんと骨を見てやるべきだと。これを解決するにはガイドの穴から顕微鏡を使って骨を見るしかないのですが、そういう話は顕微鏡歯科学会でしかでてきません。
ガイドを用いたインプラント手術は安全で簡単で初心者でもすぐできるような触れ込みがあったと思います。しかしそれは大きな間違いです。さらにフラップレスは、特に熟練した人が慎重に使って始めて効果があるものです。
またフラップレスができないと判断された場合は直ちに中止し、通常の方法に変更する勇気が必要です。この場合、最初に患者さんに「痛くない、腫れない、すぐ噛める」と自信タップリに言ってしまっては引っ込みがつかず、押し切るとトラブルになります。ですから私たちは患者さんには不都合な真実を事前に説明しておく必要があります。それも止むなしと判断された場合に行われる、程度の差はあれ物事すべてはそういうものです。
毎度の事ですが、新しい技術は大いなる誤解とともに発展します。そして「簡単に見えるものほど難しい」我々が常に肝に銘じなければならない言葉ではないでしょうか。
(注) ガイデッドサージェリーと略していますが、正しくは「コンピューターアシステッド」とか「CAD/CAM」などの言葉が付きます。ここではDICOMデーターを元に設計されドリル径と一致した穴を持つサージカルガイドプレートの事をさしています。