去年ALDに行った先生から話は聞いていたのですが、驚くべき性能の半導体レーザーが既に市販されているとの事で、この度実際に試用することができました。なるほど、他のメーカーがこの装置に追いつくのは、ちょっと難しいかもしれません。
その名は「Alta」、新宿のあのビルではありません。デザインはもう一つですが、性能はまさにビックリ!半導体レーザーの欠点を見事に解消しています。
半導体レーザーの欠点、それはチップ先端の状況で温度が刻一刻と変化する事です。チップはどうやっても発熱します。レーザーが組織に吸収され切開されるより先に、すでにチップ自体が高熱ですので、その熱伝導主体で切開されます。しかしそれが不安定で、温度管理が難しいのです。ですから同じ出力であっても切れすぎたり、まったく切れなかったりという現象がおきます。
その欠点を補い安全を確保するために、私は世界で唯一フットペダルで出力を連続可変できる、しかも冷却装置が着いた半導体レーザーを長らく使ってきました。これはこれで素晴らしいのですが、どうしても装置が大きく複雑になってしまいます。これだけ大掛かりな半導体レーザーは、後にも先にもこの装置しかありません。半導体レーザーの世界の流れとは、性能はそこそこでいいから、小さく軽く安くすることなのです。
しかしAltaの考え方はまったく違います。なんとチップ先端の温度を測り、それをフィードバックしてレーザーの出力を自動で連続可変します。つまり先端温度は一定、そんな事ができるのか!?
上の写真は、赤がAltaのチップ温度、青が出力をあらわしています。横軸が時間です。
最初は赤が低いのですが、これは温度を500℃に設定し、鶏肉を切開している時のものです。青が出力ですが、微妙にコントロールしながら温度をほぼ一定に保っています。
途中から温度設定を700℃に変えたので、赤い線が上がっています。そのため出力が一瞬上がっていますが、すぐにフィードバックされ出力が下がり温度が一定に保たれています。
半導体レーザーは切開すると炭化物がチップに付着します。炭化物は黒いのでそこでさらにレーザーが吸収され温度が上がります。出力が一定では温度はどんどん上がって行き、切れすぎる事になってしまいます。
ところが炭化物がポロッと剥がれると、温度は一気に下がります。つまり切開ができない。しかしそうこうしているうちにまた炭化物が付着しはじめ、切れ出す。この繰り返しが使いにくさの原因です。
半導体レーザーは最初からチップが熱を持つ事を前提に使わなくてはなりません。ならば積極的に発熱するように最初から先端を加工した方が管理が楽です。Altaはその行程が標準化されています。
上の写真はその様子で、黒い錠剤が入ったケースの裏からファイバーを差し込み、炭化物(レーザー吸収体)を付着させます。この状態でレーザーを使い始めるわけです。この行程をInitiationと呼ぶそうです。なんか宗教的であまり良くは聞こえませんが。
こうして温度管理されたレーザーによる切開は極めてスムーズで、炭化層は最少で非常にスッキリしたラインを形成します。試しに一瞬エアで冷却すると直ちに出力が上がり、温度を上げます。しかしエアを止め温度が一瞬上がったと思うと瞬時に出力が下がり、一定温度を保ちます。信じられない精度です。
現在フィードバック時のレーザー発振は連続波だけなのだそうですが、今後は断続波でも可能となるそうです。
さらに驚いた事に、このレーザーは将来的にはハンドピースを交換して、半導体励起のEr:YAGレーザーになるとの事です。私が知る限り、その方法では歯が削れるまでにはならないのですが、できるのだそうです。これもちょっと信じられませんが、とっても期待しています。
このAltaは日本でも薬事認可をとり、正式に販売したいとの事です。半導体とはいえ、Altaは日本ではまだ歯科用では認可がおりた事がない980nmですので、そのハードルはたいへん高いと思います。ぜひがんばってもらいいたものです。
未認可の並行輸入レーザーを何ら知識を持たずに使っている方が多いのですが、どうせ使うならこれくらい安全に配慮されたものを使っていただきたいものです。
久しぶりに素晴らし機器と出会う事ができました。これからも注目して行こうと思います。がんばれAlta!