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動画で見る半導体レーザー治療の実際
日本レーザー歯学会 評議員 研修委員会委員
東京都中央区開業
吉田 格
本講演では半導体レーザーの中で医療用として最も一般的な 810nm の機器について、動画を用いて解説する。810nm レーザーは生体に照射すると理論的には深部にまで達し温熱効果が発現する。しかし臨床では必ずしもそのとおりの効果が現れるわけではないので、まずその実証用に2本の基礎実験をご覧いただく。
1本目は、レーザー照射中の光ファイバー先端の温度変化について記録したものである。新鮮切断後の光ファイバーを用いて赤外線カメラで撮影すると、照射数秒後に250度を超える温度上昇が認められる。これはファイバー先端でレーザーが屈折や乱反射を繰り返し一部が熱に変換される現象で、いわゆるホットチップという状態になった事を示す。
2本目は、卵白中に新鮮切断後の光ファイバーを浸漬し、照射後にどのような変化が現れるかを記録したものである。待機時はファイバー先端から漏斗状に広がる赤いガイド光が観察される。ガイド光はこの後照射される 810nm とほぼ一致した照射域であることが解っているので、赤色の動向がほぼそのまま 810nm 照射域と考えて良い。3W 連続波を照射すると3秒後よりガイド光は徐々に収束しだし、9秒後には完全に消失、それと同時に卵白は激しく沸騰しだす。810nm は本来卵白にはほとんど吸収されないにもかかわらずそうなるのは、ホットチップからの熱伝導により生じたものと考えるのが自然である。また卵白の沸騰は赤色ガイド光の消失と同時に生じた。これはファイバー先端でレーザーが集中的に吸収され、周囲への照射量が待機時に比べ極端に減少した事を示す。
以上を踏まえ臨床での効果を考察すると、適用時はホットチップ化している事を前提とした方が現実的である。この状態でチップが軟組織に触れると先端に炭化物が付着し、色素依存性である本レーザーはそこでさらに吸収が促進されて行く。結果的に組織透過量は理論値より減少する。
引き続き臨床ビデオを供覧いただく。まず最もよくある軟組織切除について、支台歯マージンの歯肉整形と粘液嚢胞摘出術などで解説する。半導体レーザーは切開・創部止血凝固に優れており、支台歯やインプラントのマージン周囲の歯肉に対し安全に細かな整形が可能である。
しかしファイバー先端温度はその状況により変化し一定ではないので、術中は照射条件の変更を念頭に置くべきである。また半導体レーザーに限った話ではないが、照射中は組織の冷却などを充分に行い、治療対象部以外への熱伝導が最小になるよう配慮しなくてはならない。
また半導体レーザーのもう一つの代表的な使用法であるLLLT(Low Level Laser Therapy)についてもご覧いただく。LLLTはホットチップではない810nmレーザー本来の作用であり、疼痛緩和・組織賦活に対しどのレーザーより実績があり有効である。
以上を参考に、臨床に半導体レーザーを有効に取り入れていただければ幸甚である。