2023年6月20日火曜日

WFMD:歯科機能性医学研究会が始動〜もう一つ先の歯科医療のゴール


WFMD:歯科機能性医学研究会が始動 

twitterをご覧の方は既にご存じでしょうが、この度《WFMD:歯科機能性医学研究会》という、大袈裟な名前の小さな研究会を立ち上げました。

ホームページを公開して1ヶ月少々で、歯科医師44名・歯科衛生士8名を擁す団体となり、6月17日には当診療室のフロントとzoomによるオンラン併用で、KIck Off Meeting を開催しました。

既にホームページにはこの会の目的設立経緯などについて書かれていますが、ここでは個人的にこの会を通じて何をしたいのか、そしてこれから歯科はどうあるべきか、私見を書いてみます。

歯科医療の目的

一般的な歯科医療の目的とは、以下の4つだと思います。

  1. 痛みをとる
  2. 噛めるようにする
  3. 見た目を良くする
  4. 以上を長く持たせる
これだけかと言えばもちろんそんな事はなく、小児の育成やがん治療もあるのですが、現実的にはここまでだと思います。

しかし時代は変わり、口腔疾患と全身疾患との関係が明らかになってくると、口の中を診ているだけで本当に患者さんは幸せになるのかと疑問が湧いてくるようになりました。


口腔細菌と胃腸疾患

最近特に問題視されているのが、口腔内の細菌が腸に定着していることがはっきりしたこと、そしてその細菌がどうもろくな事をしていないという事。

よく知られているのが、代表的な歯周病原菌であるP.g菌。この菌がアルツハイマー型認知症の患者さんの脳内から頻繁に見つかることは、大きな話題となりました。

そこで歯周病は積極的に治しましょうという話になるわけですが、では歯周病だけが問題かと言えばそうではありませんでした。

口の中では特に病原性を持たない細菌も腸に定着し、そこから全身に悪影響を与えているものもあることも解ってきました。

過去の常識では、口腔内細菌は飲み込んでも胃酸で死滅〜分解され、腸で定着することはないとされていました。ところがこれは、ずいぶん都合の良い話であったわけです。

すると口腔内細菌が必要以上に増えないように歯磨きでコントロールする、これが全身の健康に重要ということになります。


ペプシノーゲン1と胃酸抑制剤

私の所で採血した方は「ペプシノーゲン」という項目があるはずです。これはよく胃がん検診で用いられるものと同じです。

ペプシノーゲンには1と2、そしてこの1と2の比率、の3項目があります。

このうちペプシノーゲン1は、胃酸分泌量の指標として用いられます。だいたい70くらいは必要と言われていますが、ほとんどの方は25~30と半分もありません

胃酸はタンパク質を分解し腸で吸収される形にする働きをします。当然細菌も分解されるはずでしたが、それがうまく行っていない人がほとんどなようです。つまり細菌も分解されないまま腸に落ちます

さらにタケキャブとかオメプラールという胃酸抑制剤を常飲している人は、その名の通り胃酸がストップするわけですから、状態はさらに悪くなります。

腸の中は温度37度で湿度100%ですから、細菌が最も増殖しやすい環境にあります。ここに余計な口腔内細菌が絶えず供給されると、いろいろな病気が頻発します。

その中にはがん・リウマチ・潰瘍性腸炎・心臓病などなど、現代医学でもコントロールが難しい病気がたくさんあるのです。

もちろんそれ以前に、栄養吸収にも問題が出ます。


機能性医学の中の歯科の役割

機能性医学という名前は聞いたことがない方がほとんどでしょう。詳しくはWFMDの設立経緯に書いたのでご参照いただくとして、さてここで歯科(というか口腔)は全身と繋がっているという、ごく当たり前のことを見直す必要が出てきました。

日本は法律も教育も「医科」と「歯科」は分離独立しています。ですから医科の先生の中で歯科の特殊性をご存知の方はひじょうに少ない。

一方歯科の先生の多くは全身のことにはほとんど興味がなく、それは医科に任せれば良いと考えるのが一般的です。

しかしこの見落としを是正しないかぎり、せっかくの機能性医学はそれこそ機能しません。


分子栄養学から機能性医学へ

最近多くの人が、健康に生きていくためには、普段の食事内容が重要であることに気づいて来ました。

例えば和食は健康食の代表であると思われて来ましたが、それは昭和の時代のことでした。平成〜令和の和食とは何にでも砂糖を入れ、添加剤を大量に使い、食中毒を防ぐために洗浄過剰でビタミンやミネラルが消失…と、およそ健康とは思えない内容です。

しかも消費者が求める食材は、安く・美味しく・腐らない…という不思議なもの、メーカーはその願いを叶えるために努力を惜しみません。するとそこには健康を維持する栄養はなく、添加剤など余計なものが増える、これを疑問視する人が増えて来たということです。

このようにして発生した新型栄養失調に対し、サプリメントで不足分を補給しましょうといいうのが、分子栄養学に基づいた栄養療法というものでした(本当は違うのですがここでは簡単にです)。

しかしいくらサプリメントで栄養を補給しても改善しない人が大勢いることが解ってきました。

原因は栄養を阻害するものがたくさんあったからでした。これではサプリメントの効果は限定的です。

そこでその原因の一つでもある胃腸の状態は、最低限改善させる必要があるとされてきました。簡単に言えば便秘や下痢がある以上、体調改善はしないということです。

するともう栄養だけ考慮すればよいという話ではなくなり、栄養も包括したもっと広い意味での医学的アプローチが必要と考えられるようになりました。それが機能性医学(Functional Medicine)です。


歯科のゴールはもう一つ先へ

以上のように、医学や健康をとりまく環境は大きく変わりました。

歯科ではまず、全身のことまで考えて患者さんに歯ブラシの大切さを伝える義務が発生したという事になります。そう、上記の4点だけではなく、歯科のゴールはもう一つ先に設定すべきということです。

しかしこのような発想が定着するには時間がかかりますし、健康保険の中に入ることは考えられません。この分野でも日本は遅れていくのは確実です。

ですから、気づいた人から実行してほしい。そのための方法や知識を共有したり相談する場が必要との声をいただきました。それが今年の3月26日でしたから、歯科機能性医学研究会はまだ構想から3ヶ月も経っていません。

現状では歯科臨床の現場から機能性医学を提供しても、対価が付いてくる事は難しいでしょう。ボランティアで終わっています。しかし本当に価値がある事には、必ず対価がついて来ます。そこは自由診療として提供する以外に方法はないわけで、その点で私は実行しやすい立場にあります。

今まで吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニックとして、あるいは吉田格個人として発信してきたことは、この歯科機能性医学研究会という船に乗って、いよいよ大海原に出ていくような気分です。

必要なことを社会に向けて発信する、気がついた人から良くなる、そして私が死んだ時くらいには少しは社会が良くなっていれば…そんな夢を見続けて診療を続けて行こうと思っています。