2012年5月5日土曜日

第9回 日本顕微鏡歯科学会をやってきた・3


こちらからの続きです。今回はシンポジウムのご指名があり久しぶりに表舞台に立ったわけですが、まずその抄録をご紹介いたしましょう。

***

シンポジウム・1
保存修復におけるマイクロスコープ応用の現状
〜保存修復の限界を再考する〜

Reconsiderations of clinical limits on Restorative Dentistry.
東京都中央区開業 吉田格

日常臨床において、保存不可と診断され抜歯となる症例に遭うたび次のように思う。

すなわち、どんなに大きなカリエスでも最初は小さかったという厳然たる事実がある。もしその時期に適切な治療が行われ予防が継続していたならば、生涯生活歯のまま存続しうるのではないかと。演者はマイクロスコープとは、それを実現させるための医学的・社会学的に必要不可欠な重要なツールと位置づけている。

例えば歯髄にまで到達していると思われるカリエスでも安易に抜髄に走ることなく、マイクロスコープ下における非侵襲的操作で感染歯質の選択的除去を行えば歯髄は生物学的に存続可能な環境に近づく。結果的に歯髄保存ができた症例を多く経験し、このような地道な努力こそ我国が直面する超高齢社会に対応する歯科医療の一つの解答ではないかと考えるようになった。

今日、保存修復分野でマイクロスコープの応用を論じるとき、例えば天然歯と見間違えるような審美コンポジットレジン修復や、一般に困難とされる複雑窩洞への応用が取り上げられるものと思う。事実本会でも過去そのような演題が多数あり、多くの感動を誘った事は今も記憶に新しい。

しかし本シンポジウムではそこから一歩引いて今まであまり論じられなかったそれ以前の話を、すなわち歯質・歯髄保護の観点からマイクロスコープの応用価値について考えてみたい。この分野で特別なトレーニングを受けた事がない演者ではあるが、マイクロスコープを頼りに何をどのように考え今日に至ったかを供覧いただきたい。忌憚のないご意見をいただければ幸甚である。

***

20分間の講演に込めた思い、それは「もっと歯髄(歯の神経)を大切にしよう」というものでした。私が見る限り、どうも世間では簡単に神髄を取りすぎているのないかと。

それによるトラブルは特に日本では頻発します。これは治療が不完全で「神経だけとって、ばい菌は残っている」という状態になりやすいからです。とるならちゃんととる、これが簡単ではないわけです。

そうでなくても歯髄をとった歯は、一生涯使う事は難しいことが解っています。多少苦労してでも残す事にチャレンジしてみる価値があるのです。それを実証し公開したのがもうお馴染みのYouTubeへのビデオキャストだったわけです。


3年間で51万ヒットを記録したこの動画は今もなお閲覧数を伸ばし続け、顕微鏡治療の必要性を訴え続けています。しかしこんな事も可能だと知っているのはまだ僅かな歯科医師だけ、一般の方にはさらにご理解いただけていません。

今回はこれよりさらに困難な症例を供覧いただきました。それを次にごらんいただきましょう。