2016年8月4日木曜日

予防はなぜ定着しないのか?


分かりきっていることほど実行できないもの、「予防」はその典型ではないでしょうか?

予め防ぐ、だからから「予防」と言います。予防が大切・予防に勝る治療はない・これからは予防の時代だ、日本歯科医師会でも「予防さん」というユルキャラを前面に出して予防のキャンペーンをしています(あんまり可愛くないのですが、努力は認めます…)。

しかし予防を前面に出したものの一向に定着しない、このような悩みを持つ歯科医院がほとんどだと思います。うまくいっているように見える所でも、実は独立採算としては成り立たっておらず、一般治療やその先生の講演料などで赤字を埋めているのが現状のようです。

予防はなぜ難しく、定着しないのでしょう?原因はいろいろあるとは思いますが、患者さんにしてみれば(本当はもう「患者」ではないのですが、ここでは便宜上患者とします)以下の事が考えられます。
  1. 痛くなってから歯医者に行っても間に合うと思っている
  2. 病気が発覚してから治す方が楽だ
  3. 予防にコストをかけるよりも悪くなってから健康保険で治療した方が低コスト
  4. もしかしたら予防なんてしなくても済むのではないかと思ってる
  5. 予防意識がそもそもない
とまぁ、当たり前といえばその通りです。一方歯科医院では、
  1. 健康保険での評価が低く、制度の縛りが多く使いにくい
  2. やる気のある歯科衛生士の雇用が難しい
  3. 保険診療継続期間中に自費で徴収するのは混合診療になる
  4. 予防を一生懸命やっても補綴(人工物)の寿命はたいして変わらないかも
  5. 病気が減ると困る歯医者がいる
などいろいろ考えられます。しかし以上はどれも表面的な事で、根本はこういうことではないでしょうか。

すなわち予防とは、まだ自覚症状がない状態で新たな行動を促すものです。しかし自覚がない事には人の心は動きません。たとえ脅してやっても長続きはしません。

私たち専門家から見れば、この先明らかに悪くなるだろうという事が解ります。それは予想でも占いでもなく、例えば顕微鏡からの画像をお見せすれば一応は理解してもらえます。しかし問題はそこからで、患者さんに危機感はないので、できれば避けたいと思うでしょう。いつになったら歯医者通いが終わるのかと怒る方もいるそうです。

結局予防を続けてもらえるのは、歯科医療の信頼力しだいと思うのです。この人の言う事なら信じてみようという、良い意味での詐欺的要素がどんな営業にも必要で、医療も例外ではありません。しかし今の日本の歯科界にはその力が決定的に不足している、個々の医療機関での裁量権がほとんど認められないからです。

そのためには院長が自分の考えをしっかりもち、スタッフが共鳴し、全員がそれを継続して発信し続ける力が必要だと思います。しかし残念ながらそれは健康保健制度の流れの中では混合診療の問題があり、意欲は削がれてしまいます。

歯の病気の予防が国力をアップさせることは間違いありません。そのためにも多くの歯科医院が健康保険制度から離れ、治療中から予防を徹底させるシステムに移行すべきと思います。これは私たちが保健医療機関を辞退した一番大きな理由です。