ネタ的にちょっと古いのですが、歯科界で話題(?)になった2冊の雑誌と、その後について。
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歪曲した日本の歯科事情を定期的に取り上げるのは、マスコミネタ的に価値があると言うものでしょう。内容は当たらずしも遠からず、といったものが多く、それらについて特段コメントしようというものではありません。(もちろん後に書くように的外れのものもありますが…)
しかし残念ながら、これらはまったく本質を見ていない。裏側を見たつもりで「もうダマされない」と言っているようですが、その程度の論評はジャーナリズムとしていかがなものでしょう。
その点では再三取り上げてきた昨年のNHKクローズアップ現代や、その元ネタともなっている国民生活センターの報道発表資料も、基本的には変わりません。
では「本質」とは何か?
それは「歯科医師は最低限やらなくてはならない治療すらやらせてもらえない」という制度があることです。そして国民はその程度の医療行為で十分と勘違いしている、そこが書かれないということは、記者自身が「その程度の治療」で満足しているからではないでしょうか。世界を見ていないのです。
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どの歯科医師も、実は歯をしっかり治したい。保存とか補綴と言うのですが、とにかくコレをしっかり行いたいと思っています。
本当はインプラントなんてやりたくない、けど歯をがんばって残そうとする治療は医学的には可能でも制度的に不可能(もちろん程度によりますが…)。だからサッサと歯を抜いてインプラントに置き換える、その方がよっぽど早くて収入になり感謝される、インプラントに走る歯科医師が多い背景にはこんな事情があるのです。
しかも患者さんは自分自身の事なのに、原因除去(歯をきちんと磨く事や定期検診)になかなか協力してくれません。これではどんな素晴らしい治療も長続きしません。
インプラントは半年ごとの通院(定期検診)が必要だと書いてありますが、ではブリッジや義歯ならそこまでしなくても良いのか?ぜんぜんそんな事はないのに、解っていない。
さらに「虫歯治療の患者に歯周病治療をくっつけるのは過剰診療だ」との記載がありますが、これもまったく的外れ。歯周病治療ができていない状況で虫歯治療を行えばどうなるのか?
私たちはそのような勘違いから発症してしまった患者さんの治療に毎日苦労しているわけです。余計な事をして金儲けをしているという記載こそ、記者が患者としても勘違いしていると言わざるを得ない。歯周病検査は「ついで」に行われるものではありません。
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様々な勘違いが横行している日本の歯科事情、しかしそれでも日本は世界で最も安心して病気になれる国であると思うのです。そしてそれに安住してしまった結果が今の医療崩壊に繋がっている、マスコミは率先してそれを報道する立場であってほしい。
しかしそれができないということは、やはり記者自身も「健康にはなりたいが、何かを犠牲にしてまで健康になろうとは思わない」と、現状にしがみつきたいからではないでしょうか。なぜそんな事が言えるのか?理由はこれです。
これは冒頭の写真の一冊と同じ出版社から発刊される「記事体広告本」の掲載募集要項です。お金を払ってくれたらタイトル通り「頼れる歯医者さん」にしてあげますよ!、と誘うものです。この広告料を見て皆様はどう思うでしょう?
この本が言う信頼とは実はお金で買ってもらうものであって、取材の結果ではないわけです。 (JAROに訊いてみようかな?)
このような企画を同一出版社が行う事からも、世の中を良くしようという思いはないことが解ります。
歯科への不信を煽り、経営難の不安に陥った歯科医師から高額な広告宣伝費を搾取しようとする、ただ引っ掻き回して自社に収入があればそれで良いというマッチポンプの典型と誰もが思うわけです。
記事体広告本は、オリジナルと思われる読売はすでに問題点を認め廃止、朝日新聞出版も今年の出版をしませんでした。この出版社にも早く気がついてもらいたいものです。
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話を元に戻しましょう。本質とはなんだったのか、それは「制度」そのものがおかしい、なのにそれで十分と勘違いしている患者さん、諦めている歯科医師。
これほど病人が多いにもかかわらず、歯科医師過剰とは、みんな「その程度」で当然と思っているからなのだと思うわけです。(参照:歯科医師は本当に過剰なのか? Blog:歯界良好 2009-8-2)
さて件の雑誌の記者さん達、あなたの歯は本当に大丈夫なのですか?自分自身の未来をどう読んでいるのですか?実はダマされているのはあなた自身なのではないのでしょうか?