ただしそれは短期的にという事、そして背景に日本人特有の勘違いを内包している事がとても心配です。私がいつも感じている「政治経済」と「医療」の乖離について、またちょっと書いてみます。
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医療を成長分野と位置づけるなら、具体的にはどこから手をつけるべきでしょう。そして今、医療の現場で一番求められているものは何でしょう。
それは最新の医療機器ですか? iPS細胞を応用した新薬ですか? それとも老朽化した病院の建て直しでしょうか? どれも急いで欲しいものですね。けど一番ではありません。
何が一番か、それは人手、マンパワーです。さらに言えば人材です。医師・看護師はもちろんですが、その周囲で働く人、たとえば事務の人・技師さん・清掃の人、すべてが足りません。もちろん予算がないから雇えないわけです。それから医療の現場が必ずしも魅力的な環境でない事も人が集まらない原因です。なのにそこに予算を持っていく事は考えられていません。なぜか?
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政府は医療を輸出産業として育成したいと思っています。実は医療の現場では輸入品が非常に多く(実際私の診療室もそうですが)、医療機器だけ見ると驚く程の貿易赤字なのです。しかも医療機器は非常に高額です。
これが逆転し、優れた日本の機械が輸出されデファクトスタンダードになれば、安定した収益が日本にもたらされます。それがアベノミクスの3本目の矢『民間投資の喚起』ということです。
医療を経済から支えることは政治として当然です。しかしやはり政治家は、医療を経済的な側面からしか見ることができない、現場の窮状をなんとかしたいとか、患者さんのためにという発想ではないわけです(それは違うと言うでしょうが)。
本当になんとかしたいのであれば、たとえば公共事業費を削減し、その分を医療費に充てるはずです。しかしそれはありえません。医療行為は消費ですから国家にとって重荷であり、優先順位は低いのです。財政上そこに予算を取られては困るからです。これが今も続いている低医療費政策と呼ばれているもので、人手不足は仕組まれたものとさえ思えます。
医療を成長分野として考える事は野田政権のころもあったのですが、あの当時も他にできる事がないから「しかたがない、医療でもやるか」という感じで、困っている患者さんがいるからではありません。でなければもっと早くやっているはずです。
これが逆転し、優れた日本の機械が輸出されデファクトスタンダードになれば、安定した収益が日本にもたらされます。それがアベノミクスの3本目の矢『民間投資の喚起』ということです。
医療を経済から支えることは政治として当然です。しかしやはり政治家は、医療を経済的な側面からしか見ることができない、現場の窮状をなんとかしたいとか、患者さんのためにという発想ではないわけです(それは違うと言うでしょうが)。
本当になんとかしたいのであれば、たとえば公共事業費を削減し、その分を医療費に充てるはずです。しかしそれはありえません。医療行為は消費ですから国家にとって重荷であり、優先順位は低いのです。財政上そこに予算を取られては困るからです。これが今も続いている低医療費政策と呼ばれているもので、人手不足は仕組まれたものとさえ思えます。
医療を成長分野として考える事は野田政権のころもあったのですが、あの当時も他にできる事がないから「しかたがない、医療でもやるか」という感じで、困っている患者さんがいるからではありません。でなければもっと早くやっているはずです。
国にとって医療で一番大事なのは、患者さんの命ではありません。予算です。すべてはその中で決められ、医学的に正しいかどうかは二の次なのです。低い労働賃金でぎりぎりのところで運営し、大きな事故さえおきなけれは良いのだと思います。これは会社経営と同じで、予算の中で動く事は国家として当然なのです。
もし予算を無視して医学的に正しい事をどんどんやってしまったら、財源はすぐになくなり、不公平が爆発するでしょう。みんな「私にも自由に病気にならせろ!」と。
もし予算を無視して医学的に正しい事をどんどんやってしまったら、財源はすぐになくなり、不公平が爆発するでしょう。みんな「私にも自由に病気にならせろ!」と。
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がっかりするような事を書いてしまいましたが、これが現実です。医療産業は成長するでしょうが、その恩恵を受ける事ができるかどうかは微妙であり、所得の底上げがあるとは思えません。また日本の医療制度自体が良くなる事も現状では考えられません。私が保険診療を辞退した理由はここにもあります。
ただし今後は日本独自の解釈である混合診療の解禁やTPPの行方しだいで、良くなる可能性があります。しかしそれまでにはまだまだ時間がかかるでしょうし、今度は個人が用意する予算が問題になるはずです。
ではどうするか?答えは誰もが知っているように予防を徹底することです。健康や医学についてみんなが最低限の知識を持ち、低コスト社会を実現する事以外にありません。
今の日本のシステムでは、個人レベルではおそらく健康に投資するより、楽をして病気になるべくしてなり保険で医療を受けた方が低コストになるのではないかと思います。もちろんその分国の財源を消費します。
病気による社会損失をきちんと把握し、救命や先天性疾患などの避けようがない分野に予算を配分して成果を出す、その時にはじめて医療が成長したと言われるのではないでしょうか。政治経済の方々は現場をきちんと見ていただきたき、医療の特殊性を学んでいただきたいと思うのですが。