2010年3月27日土曜日

さらば、不遇のP-Laser

今日は悲しいお知らせです。下の写真は初公開のRoom-Bと呼ばれている診療室、そしてその右奥に置かれているのがPanasonic の半導体レーザー"P-Laser"です。


すでにお気付きの方もおられるでしょうが、YouTube に公開している半導体レーザーの動画はこれを使ったもの、営業さんが販促しやすいようにと私が造ったものです。


で、この度このP-Laser とお別れしなくてはならない事になりました。


このレーザーは半導体レーザーと呼ばれる種類のもので、実は日本ではあまり普及していません。日本では炭酸ガス(CO2)レーザーというものが約7割と、極端な普及率となっています。

ところが国際的には半導体レーザーとエルビウムヤグレーザーという歯が削れるタイプのレーザーが主流で、おおざっぱな切れ味の炭酸ガスレーザーを歯科で多用しているのは日本だけという、たいへん不思議な現象がおきています。

理由はよくわかりませんが、一部のメーカーの強力な営業力のせいではないかと思われます。日本の歯科レーザー事情とはたいへん歪なものなのです。

さて私はその半導体レーザーの繊細さが気に入って1999年から輸入品を自己責任で使っています。その当時は安全性が高い国産品がなかったのが一番の理由でした。

その後国産でも半導体レーザーが出てきたのですが、出力が低すぎて操作時間が長くなりすぎ危険だったり、冷却装置がないなど、いろいろ問題がありました。

その後数年を経てやっと世に出たのがこのP-Laserだったのです。

P-Laser の特徴は高出力と短いパルスです。これにより熱損傷を最小にしながら、手早く処置ができるようになりました。冷却装置こそありませんが、これはテクニックでカバーできるので問題は小さな事です。


実は低出力だと、ダラダラ使うようになり、熱による周囲の影響が大きく出てしまうんです。やっと国際的にも見劣りしない半導体レーザーが国産ででてきたかと、発売当初はずいぶん喜んだものでした。

しかしこのP-Laser の生い立ちは非常に複雑で、当初はPanasonicから発売されるものではなく、GC社からOEMで発売される予定だったもので、認可前に展示会で参考出品もされていたものでした。

その後なぜかはわかりませんが、GC社はこの半導体レーザーを発売することはありませんでした。MIを推進するGC社がなぜこのレーザーを不採用にしたのかはわかりませんが、まったくもったいない事をしたものだと思います。

しかしそれ以前に、お役所からの認可に異常なほど時間がかかってしまったのも不幸な事としか言いようがありません。私の知る限りでは4年以上の歳月がかかっています。

日本は医療機器に対する認可の締めつけが考えられないほど厳しく、最新の技術であればあるほど世に出るチャンスは訪れません。開発費や認可に伴う莫大な資金の回収ができず、小さな会社はすぐに潰れるようにできています。Panasonic という大企業でなければできなかった偉業(?)です。

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さんざん苦労して世に出たこのP-Laserですが、その後も実に良くなかった。まずプロモーションがほとんどなかった。きちんとした宣伝・広報がぜんぜんありませんでした。そしてなぜかわかりませんが代理店制度をとり、売り方も解りにくかった。

私は販促のためにビデオを撮り、営業さんに持たせる裏方をやっていたのですが、そのうちこれを使って講演会をやろうという事になりました。しかし結局実現したのは仙台の一ヶ所だけ。

このあまりにチグハグな販売戦略にさすがに私も呆れてしまい、この会社はやる気があるのかと疑い始めたものです。

しかし内情は非常に複雑で、ついにPanasonicは歯科用レーザー事業から撤退を発表します。一生懸命やっていた社員に報いる事なく、Panasonic はグループ全体の利益を追求するあまり、家電以外の事業を縮小する決定をくだします。そしてその結果がこれです。


松下ブランドを捨て、国際統一ブランド Panasonic を掲げて家電にフォーカスした事業再編は成功したかのように見えます。これは企業の生き残り戦略としてとても全うだと思います。

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私にはすでに、このP-Laserより高性能な半導体レーザーがあります(旧製品なのに!?)。ですからP-Laser がなくなっても不便はありません。移転で個室化されたのでレーザーの移動がちょっとだけ不便ですが、それは小さな事です。

しかしそれにしても悔しい!

役所に振り回され、OEM先に翻弄され、企業の論理に道を閉ざされ、このレーザーの生涯にろくなものはありませんでした。

ちょうど一年前、当時の営業部長さんが突然他のグループ会社に転勤になりました。聴けばこの3年くらいでトップが3回変ったのだそうです。その度に会社の方針がコロコロ変り、プロモーションはおろか、製造販売すらおぼつかなかったようです。部長さんは無念の泪を浮かべて転勤先へ単身赴任して行きました。

3月をもって私はPanasonic との臨床アドバイザー契約が満了となりました。すでに製造販売が終わった製品ですから当然です。社員のかたが無念の顔で機械を引き取って行きました。大柄な方なのですが、その背中はとても寂しそうです。

先に書いたように日本の歯科レーザー事情はたいへん歪です。教育もろくに行われていないのに保険収載されたり、危険な使用方法がまかり通っていたり、見るに耐えません。

この度の良識ある企業の撤退はもはやダメ押しです。しかし私は待っています。Panasonic が再び歯科に目を向け、国際的に見劣りしないレーザーをまた世に出してくれる事を。

しかしそのためには日本の歯科医療自体が、国際的に普通のレベルに達しており、魅力ある市場でなくてはなりません。そんな事が本当におきるのでしょうか?

私は今学会の中で研修に携わるポジションにあります。臨床でお使いになる先生に採算性は無くとも、せめて事故が起きない安全な使い方が普及してくれればと思っています。

さらば P-Laser、さらば Panasonic 。いつか笑顔で帰ってきてくれる事を祈っています。