2015年3月29日日曜日

再根管治療の効果・1

根管治療は日本の歯科保健医療において、最も問題が出やすい分野です。

それにかかる費用は他国と比べ1/6とも1/10とも言われ、先進国として恥ずかしくない治療を目指そうとすれば、誰がどう考えても極端な赤字にしかなりません。

したがって、一回目の治療の結果に不備が出てしまい「再根管治療」になるケースは日常的で、もっと社会問題になって良いのではと思います。(再根管治療は日本の健康保険用語では「感染根管治療」といいます)

インターネットの時代になり、日本の歯科治療が、特に根管治療は問題が出やすい事が知られるようになってきました。具体的な事はまた後に記しますが、ここではCT画像を用いて、その実態と自由診療による再治療で改善した二つの症例を問題点と共にご覧いただきましょう。


その前に、ちょっとだけ根管治療のお話を。

虫歯が大きくなり歯髄(歯の中の神経血管)が感染すると、残念ながら体の他の部分と違って元に戻すことができません。大きな痛みも出ますので、もう歯髄を除去するしか方法がありません。これを抜髄と言うのですが、そうすれば確かに痛みはなくなります。

しかしこれは「治った」わけではありません。それに私たちが取りたいのは細菌であり、歯髄ではありません。しかし細菌を取るには神経といっしょに除去するしかないので、単に「神経を取る」と表現されます。

ところが困ったことに「神経は取ったが細菌は残る」という状況が頻発します。というより、神経は単純な一本線ではなく曲がっていたり枝分かれしていますので、簡単な操作では取り残しがたいへん多く出てしまいます。通常歯の中は見えませんので、レントゲン写真と勘を頼りに、手探りで進めていくのが普通です。当然これではかなりの取り残しが出てしまいますが、それすら気がつくことはできませんでした。

しかし顕微鏡が実用化されると、肉眼での治療にいかに不備が多かったのかが誰にでも解ります。録画もできるので後で患者さんに治療中のビデオをお見せするのですが、皆ビックリします。

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根管治療のやり直し、すなわち再根管治療の頻度はたいへん多く、私の診療室で行う根管治療のうち初発は1割もなく、9割以上が再治療です。初発の時に十分な治療が行われていれば大きな問題は出にくいのですが、行政に理解がなくこの状況に改善の見込みはありません。唯一の方法が、自由診療により諸外国並みの時間をかけて行う事です。

しかしいくら時間や資金があっても、再治療は初発の治療に比べて成功率が落ちることが世界的に知られています。これはすでに感染が深部にまで進んでいる事と、一度人の手が入ってしまった状況から新たに器具を進めてゆく事はさらに困難だからです。特に奥歯は構造が複雑なこともあり、前歯の再治療よりかなり成功率が落ちてしまいます。

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再治療など無駄だから、諦めて抜歯してインプラントを勧める歯科医院はたくさんあります。たしかに保険診療ではやれる内容が限定的ですので、再治療で改善する見込みはあまりないでしょう。また経営だけを考えれば、赤字が確実な根管治療を一生懸命やって経営難になるよりも、インプラント治療を勧める方が正しいことになってしまいます。

しかし自由診療専門医である私たちには多くの選択肢があり、混合診療の問題も気にする必要がありません。もちろんインプラントや歯の移植といった方法もありますが、第一義的には再治療を積極的に行い、その歯をできるだけ保存する事を考えます。もちろん無理な保存はかえってデメリットをもたらしますので、最初から別な方法をお勧めする事もあります。しかし再根管治療の可能性について知っておくことは大切だと思います。

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前置きが長くなってしまいましたが、まずこのCTをご覧いただきましょう。左が治療前、右が治療後になります。

治療前の写真には、根っこの先端に黒く見える病変が写っています。根管の中に残存した細菌が造る毒素が先端から漏れ、炎症が起きて骨を破壊した痕です。

治療前          治療後


以前の治療はそこそこ頑張っている部分も見られますが、病変ができてしまっては意味がありません。顕微鏡を用いて時間をかけ感染源を徹底的に除去すると、右の治療後の写真のように黒く写っていた病変が観察されないくらいにまで改善しました。まずは地道にこのような改善を目指すのが、再根管治療の目的です。

ところが先ほど書いたように、再治療の成功率は決して高くはなく、この写真のような改善が見られない事がよくあります。そのような場合はどうしたらよいのでしょう?


顕微鏡がもたらした新たな術式


先に書いたように、顕微鏡を用いた治療は私たちの特徴の一つです。根管治療やコンポジットレジン修復などには必要不可欠、これは自由診療では当然です。

しかし外科手術、特にインプラント治療においては、全体を広く見渡してバランスを考える必要がある事などから、私は拡大鏡の方が便利なシーンが多いと考えています。インプラントの埋入時にはほとんど使いません。

しかしそれ以外のインプラント治療に付随する処置ともなると、話は違います。歯肉移植などの細かい処置、埋入窩からの上顎洞の開窓、そしてインプラント周囲炎の処置などは、顕微鏡がもたらした新たな術式と言って良いと思います。

またこのような手術を補佐する助手のスキルは、顕微鏡を使った手術をスムーズに行ううえでたいへんに重要です。手術助手は歯科衛生士です。当然常勤スタッフで、普段から顕微鏡を使って患者さんのケアに当たっているヘビーユーザーです。だから私が顕微鏡でどのように見えており、次に何が必要なのかを理解しています。

手術にはこのような見えない配慮がとても重要になります。

(写真は、インプラント埋入窩から直接上顎洞を開窓し粘膜剥離を行っている私。助手はよそ見をしているのではなく、顕微鏡からのモニター画像を見てアシストしている。)

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以上、5回に渡って私たちの手術の考え方について書いてみました。自由診療専門の医療機関であればさらに厳しくして行かなくてはならないと思いますので、今後とも努力と工夫を重ねより良い診療体制を目指して行きます。

体幹と立ち位置


体幹を意識し立ち位置を決める・姿勢を正し脇を締める。手術中はこんな事を意識しています。

何があっても冷静に臨機応変に対応し、予想外に長時間となっても決して集中力を切らさない、疲れない余裕の手術を行うためにはまずこんな事から始める必要があります。

通常の歯科治療は座っていて楽なように見えますが、実は姿勢やバランスを大きく崩し、無理な体勢で行っている事が多い。座っていると気がつかないのです。

特に顕微鏡を使っていると、顕微鏡に合わせて体幹や重心をずらしてしまう事があります。しかたがない時もありますが、それではかえって疲れます。

しかし外科の基本に立ち返ると、自ずと一般歯科診療のヒントが見つかるのはある意味自然かもしれません。

ただし、解決しない問題もあります。自分の体幹を優先するので、スタッフには無理な姿勢を強いる事になります。お金を払って雇っているとはいえ、スタッフは本当にたいへんだと思います。いつもありがとう!


左手も使ってみる


左手が使えるようになると、手術の自由度が一気に拡がります。

歯科は患者さんの顔に対し9~12時の位置から右手で治療をする事がほとんどです。しかし私は特に手術時には患者さんの3時に、すなわち左側に立ち、左手で手術をする事があります。

もちろん右手と同じ動きができるわけではありませんが、簡単な切開や縫合・それから上顎洞の開窓くらいなら左手で行えるようになりました。練習したからです。

昔、医学部の歯科口腔外科の手術室によく見学に行きました。10年くらい通って、本当に多くの手術を見せてもらいましたが、担当の先生は左利きで左右の手を器用に使い分けていました。羨ましかった、左でやればこんなに簡単なんだと思いました。

外科の先生方は手術を想定して、普段からいろんなトレーニングをしています。それくらいの事は歯科でも行うような風潮であってほしいものです。

(写真は、左手で持針器を持ち縫合している私です)




非常勤スタッフは採用しない


医療の現場は何がおきるか解りません。この日も予定していた内容は術中に変更となり、急遽骨を移植する事になりました。

これくらいならまだ良いのですが、患者さんの容態が急変したり、手術中でなければ診断できない内容に敏速で柔軟に対応する必要があります。

それには日頃からの準備と、スタッフとの意思の疎通が重要です。私が非常勤を採用せず、あくまで常勤スタッフのみにこだわり、勤務時間にシフト制を導入しないのはそのためです。

朝全員で掃除やミーティングをし、最後は全員で片付けてミーティングで終わります。

非常勤スタッフを雇うなど、診療時間を延長すれば収益も上がるかもしれません。しかしそれではたいせつな意思の疎通が希薄になるし、責任の所存も曖昧になりやすい。

私たちのような幅広い選択肢を持つちょっと特殊な医療機関では、それはできません。スタッフ全員が常に同じ情報と視点を持つ、それが重要です。


見る方向を変える

先日手術中の風景を撮ってもらったのですが、その中の何点かを見ていたら私たちの考えが説明できるかなと思いましたのでご紹介いたしましょう。

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顕微鏡を用いた高精度な治療は私たちの診療の特徴の一つではありますが、このような拡大鏡(ルーペ)も実はけっこう使います。

両者とも「拡大する」という点で共通してはいるものの、その用途はずいぶん違います。

なのに他方に対し不要論をふりかざし、臨床の可能性を自ら狭めている人がいるのは残念です。

顕微鏡と拡大鏡は見る方向が全く違う、だから新しい応用方が生まれます。

「見る方向を変える」というのは、よく物事を考える時に用いられる表現ですが、本当に見る方向を変える事は特に医療の世界ではとてもたいせつな事だと思います。


2015年3月28日土曜日

SHOFU 歯メイトコラム 第3回 ベクトルは外向きに


先日ご紹介した「SHOFU 歯メイトコラム」の第3回が、一般向けに公開されています。下記のリンクをご参照ください。

http://www.shofu.co.jp/ha_mate_member/core_sys/images/main/column04/column4_03.html

ネタは、そう、去年夏の「Act or Die 顕微鏡が明らかにした現実に応える」にて配布した文章をリメイクしたものです。内輪で固まっていないで、もっと外に向けて発信しないと歯科界は危ないのではないかという内容です。

実は先日歯科界の重鎮の先生にちょっとこの件について話したのですが、案の定「そんなことね〜よ〜」と言われてしまいました。しかし症例造りのための症例というのは、多くの場合患者さんに価値が理解されているとは言い難く、何のため・誰のためのものなのか疑問なことがあります。

まぁ異論反論を承知の上で書いているのですが、私個人としてはベクトルは内外双方のバランス感覚が大切と思っています。井の中の蛙がユデ蛙にならぬよう、価値観の共有は患者さんともしなくてななりませんよね。

顕微鏡歯科学会 症例検討会 in 福岡をやってきた

何も更新できないまま、三月も終わりに、、、一ヶ月以上経ってしまいましたが、去る2月22日、日本顕微鏡歯科学会として第二回となる「症例検討会」をやってきました。所は去年の学術大会開催地である福岡、会場は福岡歯科大学です。


顕微鏡ユーザーは着実に増えているものの、まだまだ珍しい装置である事に変わりはありません。せっかく買ったのにどうやって使ったら良いのか悩みが多いのに、訊く人が周りに誰もいない…そんな会員の声に応え始めたのがこの症例検討会です。


企画側として先導してしまった手前、どうしても私が司会進行をしなくてはなりません。プラス、今回は最後の時間調整役で簡単なプレゼンまで行いました。症例は動画で行う事が多く、その撮影などの悩みが多いということで、自分自身が12年でどう変わったかを提示してみました。つまり私が2003年に最初に顕微鏡から撮影した動画と、前々日に撮影した最新の動画を見比べ、コメントしてみました。

さすがに12年も経つと機器の進歩は目覚ましく、画質の違いは一目瞭然。説得力が違います。しかしいかにきれいに撮影しようとも、そこから治療のポイントを抽出して患者さんに説明したりプレゼンに用いるのには慣れが必要で、ただ動画を流していれば良いというわけではありません。治療時間は長いですが、説明時間は短い、ここをどうするかを自分なりにまとめてみました。


会場はこんな感じ。参加者60名以上と、前回の東京より盛況。悩める初心者の先生から、場慣れしたプロ級プレゼンターの先生まで、盛りだくさんでした。


今回の福岡で一つ楽しみにしていたのが、大濠公園での朝ラン。一度走ってみたかったランニングの名所です。さほど寒くもなく、快適に7km行ってきました。地元の先生に案内していただき、観光しながらのランニングは格別です。


3人で行ったのですが、お一人はフルマラソンを平気で完走するプロ、地元の先生は国際視覚障がい者マラソンの伴走者として銀メダルを獲得したとんでもない人。。。私のスローペースに合わせていただき、ありがとうございました。

さてこれは個人の意見なのですが、この症例検討会を踏み台に、学術大会でご発表いただける先生が増えてくれたらなと思うのです。顕微鏡歯科がはたして学問なのかと言えば疑問なのですが、まだまだ応用が出尽くしたわけではなく、普段から使用している開業医の先生こそ発表題材が多いのではないでしょうか。

第三回の開催は未定ですが、できるだけ頻繁に行い、会員にチャンスを与える事も執行部の仕事ではないかと思います。

今回の開催は地元九州の先生方の多大なるご尽力により、たいへん多くの方を集め、楽しく開催することができました。本当に感謝いたします。

福岡、いいところだな〜